第71話 首都エメトにて

 宇宙真理国に着いた。


 宇宙港に降り立ち、外に出た。


 ……周囲に何にもない。


 周囲を見回しながら、俺は茉莉に


「シャトルバスで首都エメトの中心部まで行くんだっけ」


「ええそうね」


 そこまで行かないと宿泊施設無いからね。

 そう言いながら


「でもその前に、ゴルドに日本円を交換しなきゃいけないから、ちょっと待って」


 おっと。


 まだしてなかったのか。


 俺は出発前にとりあえず20万円ほどゴルドに交換したんだけど。


 仮想通貨ゴルド。

 歴史は200年ほど。


 200年間大きく破綻するようなこともなくて、信頼性はかなり高い仮想通貨なんだけど。

 俺は古い人間なので、こういうときでないと使わない。


 だって信頼できないじゃん。

 後ろ盾に国が存在しないお金だなんて。

 いくら破綻の歴史が無いって言われてもさ。


 茉莉はまだそれに、お金を交換してなかった。

 結構意外だったけど……


 彼女にとっても仮想通貨は出来れば使いたくない胡散臭いお金なのかね……?

 俺と同様に。


 そんなことを、ATMに向かって走っていく彼女の後姿を見つつ、思った。




 完全AI制御自動運転で無人のシャトルバスに乗って、首都エメトの中心部に到着。


 ここでやっと、宇宙真理国の街並みが見えた。


 ……まず、普通の家みたいな建物が無いんよな。


 所謂一戸建てに相当する建物が無い。


 全てが高層ビル。


 最低5階建てなんだよ。


 ……土地の有効活用か。

 見てて思った理由がそれ。


 あと。


 道路にカーブが存在していない。

 曲がって無いんだよ。


 十字路、T字路はあるけど。


 ……先に道路を作って、後から建物を作ったか。

 それがそこに関する感想。


 まるで碁盤じゃん。


 ……なんかあれだな。

 北京に似てる気がするわ。


 そして……


「乗用車が走ってないな」


 車道を走ってるのはバスだとか、大型トラックだけなんだわ。

 それに関して茉莉は


「無いわね。確か、法律でマイカーは所持を禁止されてるのよね」


 マイカーの所持は交通事情を複雑化させ、交通事故の原因となる。

 なので所持禁止。


 だとさ。


 ……へぇ。


「それで社会回ってるの?」


「回るように知恵を絞ってるみたいよ。バスの本数だとか。鉄道の整備だとかで」


 ん~、すごいな。

 効率だけ重視した社会なんだな。

 とことん。


 なんて


 会話をしていたら


 腹が減って来た。

 鳴りはしないけど、朝飯食った後、その後何も食ってないからな。


 なので


「なぁ、昼休憩にしないか? 具体的には、食事」


 茉莉にそう提案をする。


 すると


 彼女は携帯端末を取り出して


「この近辺で食事できるところ」


 音声検索を掛けた。


 それに反応し、即座に結果が表示される。

 電子音声こみで。


『ご案内出来るお店は5件ございます』




「韓国料理店がV1-11-03、中華料理がZ1-23-04、日本料理がW1-22-05……あとは大衆食堂か」


 ふーん。

 大衆食堂な。


 俺は定食屋とか、蕎麦屋とか。

 そういうのを想像して。


「大衆食堂。そこ行こうか」


 俺が気軽にそう提案したら


 彼女は


「いや、やめましょ」


 即答。


 え……?


 ……茉莉って、そういうの気にしない女性だと思ってたんだが。

 高級店で無いと嫌とか言うのか……?


 勝手な話だけど、俺はちょっとだけショックを受けてしまった。

 美人ではあるが、飾らない女性だと思っていたんで。


 だけど彼女は、俺の様子を見てため息をつき


「リューイチ、宇宙真理国の大衆食堂が分かってないね」


 そして説明してくれた。


 宇宙真理国における大衆食堂って何なのか。


「宇宙真理国の大衆食堂は、無料なの。……最後のセーフティネットだから」


 曰く、無料でおにぎりやパンを1つ提供してくれる施設で。

 国民等級に関わらず誰でも来れる。

 大衆食堂以外の他の食事店は、Cは行けないらしい。


 ……国民等級とは、この宇宙真理国の社会システムで。


 ABCの3つがある。


 Aは前にも語ったけど。


 人格指数と知能指数が一定以上で、犯罪歴が無い国民。

 A級国民間限定で、自由恋愛をする権利と、その結果の妊娠出産、育児を行えるこの国のエリート。


 BはAになれなかった国民。

 子作り関係以外は比較的自由に生きられるし、選挙権もある。


 Cは税金を免除されている国民。

 この国の最下層。


 そう……

 この国は税金を払わなくて良いんだ。

 ただ、そうすると自動的に国民等級を最下層のCにされる。


 Cになると選挙権が剥奪される。

 子供を作る権利も無い。

 入れない店も出てくる。


 そして何か犯罪を犯したら、自動的に死刑。


 ……厳しいいいい。


 まぁ、税金を免除されていた分も含めて再び払えるようになったら、Bに戻してもらえるらしいけど。

 それでも厳しいわ。


 茉莉は続けた。


「だから大衆食堂の食事は、日本で言えば……ホームレス支援の炊き出しに近いと思うのよ」


 さすがにそこで昼ご飯にしよう、は無いわよね。


 そこまで言われると


「だな」


 そう言うしかないわな。

 なので……


「一番近いのは?」


「韓国料理」


 ……韓国料理にした。

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