第53話 仕事の不満というか……
「ラークシャサの命名の由来ってさ、あの蟲の顔がリオックに似てるからなんだよね」
帰りの宇宙船の中で。
1回目の空間跳躍が終わったので、俺はメインルームで相棒と話していた。
そこで惑星S-768であったことの話になったとき。
当然、
その過程で教えてくれたんだ。
俺が
「リオック?」
俺は知らなかったので訊き返すと
「インドネシア原産のお化けコオロギ。体長が8センチくらいあるの」
「へぇ」
適当に流すように聞いていたんだが。
所詮コオロギの話だろ、みたいな。
でも……
続く言葉で驚いた。
「ソフトインセクト最強で名高い生き物よ。……ネズミより強いみたい」
「マジか……」
そのリオックのインドネシアでの名前がジャンクリ・ラクササで。
このラクササという言葉が巨大という意味で。
その語源が、インド神話の鬼神を意味する名前ラークシャサなんだと。
そこから、顔が似てるし、獰猛さが本家に引けをとらない蟲なので、ラークシャサ。
そこまで聞いて、なるほど、と納得し。
色々ムカつきはしたけれど、なんとも複雑な気分になった。
まあ、
奴らがまともでないから、主張していることもまともでないかというと、それは別の問題だよなあ。
俺たちは今日、あの星で細々と生きてきた土着生物を絶滅に追い込むための材料確保に出向いて。
それを見事手に入れて帰って来ている。
これが俺たちの仕事なんだと言ってしまえばそれまでだけど。
やっぱ色々、感じ入るものがある。
……生きるために、俺たちは許されないことをしてるのかなぁ、って。
「リオックは知っとくべきよ。男の人って強い生き物好きでしょ?」
楽しそうにリオックの話をする相棒。
俺より生き物に対する思い入れが深いはずの彼女は、何を思っているんだろうか?
「そもそも、リオックって分類としてはバッタに属するんだけど、バッタは雑食系と草食系で分かれてて。リオックが属するのはその雑食系。コオロギやキリギリスがそこに含まれるわ」
楽しそうにそう話を続ける相棒に
「なぁ」
俺は話を遮るようにそう言った。
彼女は、何? という顔で俺を見て
俺の言葉を待つ。
俺は……
「やってることは罪深いよな。俺らの仕事」
特に今日の仕事は、有害生物駆除だし。
そんな思いを口にしたら彼女はしばらく考えて
「……まぁ、雇われている身だし、考えても仕方ないよ」
そんなことを言ってくれた。
彼女は
「どうしても気になるなら、仕事を変えるしかないけど。私はこの仕事辞めたくないし。……あなただってそうでしょ?」
まぁ、そうなんだが。
自分の特技を存分に活かせて、環境も最高で、給料も良い最高の職場だしな。
でも……
気にはなるんだよ。
モヤモヤするけど……
蓋をしてしまうべき……なのかなぁ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます