6章:宇宙の無法者
第54話 新しい腕
「国生さん、調子はどうですか?」
病院着のまま、病院の中庭ベンチで呆けていたら。
担当の白衣の女性看護師さんに左腕の調子を訊かれた。
「多分問題ないと思いますよ」
俺は左腕……クローン技術で作った新しい左腕をグーパーして問題ないことを主張する。
今日、接続手術の日だったんだ。
手術自体はすぐ終わったんだけど。
問題はその後だ。
さっきまでリハビリで格闘ゲームを2時間くらいやらされた。
それで、コマンドの入力でやり辛いなと感じたことは無い。
だから多分大丈夫だろ。
ちなみにゲームなんだが。
リハビリ目的なので、ゲームは数百年前の骨董品なんだよな。
最新作の、歴代葉鍵キャラが全員集合してバトルする2D格闘ゲーム「クイーンオブハート2700」みたいなやつじゃない。
製作元の会社が潰れて完全になくなってしまい、その結果宙ぶらりんになった著作権が消滅したり。
古すぎるから会社が権利を放棄して、フリー化したゲームだ。
昔の記録見たら大人気でお金をガンガン稼いでいたゲームだったりもするみたいなんだけどさ。
今じゃサービスでタダでダウンロードできるようなシロモノなんだよな。
看護師さんは優しく微笑みながら、俺に指導をしてくれる。
「格闘ゲームはボタン操作が激しいので、手の移植時のリハビリで最適ですので、しばらく続けて下さいね」
「分かりました」
そう答えつつ。
CPU戦飽きるから苦痛だよな。
そう、内心考える。
すると
「ちなみに使用キャラは何ですか?」
女性看護師さんがキャラクターを訊いてきた。
俺としてはリハビリの一環でプレイしていたから
キャラの名前を憶えてなくて
「ええと……米軍人の……ええと……眼鏡の……」
「ああ、あの人。かっこいいですよね」
そう、俺の持ちキャラを褒めつつ
「いけません」
……否定された。
なんで?
「それは何故ですか?」
聞き返すと
「溜め系の待ちキャラだからです。十字キーの操作が単調になります」
……結構真っ当な理由だった。
看護師さんが言うには、主人公系のキャラが良いらしい。
主人公って言うと……あの求道者っぽい空手家?
でもさ
「昇竜拳コマンドが入りにくいんですけど。入れようとすると別の技が出ます」
「初心者はそうなんですよ」
……なんか食いついてくる。
看護師さんはニコニコしつつこう提案してきた。
「どうでしょう? 付き合いましょうか? 私は趣味でそういうレトロゲーは嗜むので……」
んん、それはありがたいかなぁ?
なんて思っていたら
「リューイチ」
……笑顔の相棒がお見舞いに来てくれた。
まぁ、今日接続手術やるって言ってたからな。
彼女としても責任感じてるかもしれないし。
来てくれるか。
「ありがと。仕事終わってからスマンな」
「いいよいいよ。パートナーなんだし」
そう言葉を交わす。
すると
「あ、彼女さんがいらっしゃったんですね」
看護師さんはそう言い残し。
チッ
……去り際に舌打ちが聞こえた気がしたのは気のせいだろうか?
相棒は、そんな看護師さんの後姿を笑顔のまま見送っていた。
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