第38話 領星の常識

 惑星N-444に到着した。


 行ったことは無いんだけど、環境は月に似てる気がする。


 岩石のみの静かな世界だ。


 ……ここ、大気が無いせいで昼は150℃、夜はマイナス130℃になる。

 寒暖差が激しいのよ。


 で、重力は地球の半分だ。


 重力は1G以上の場合は作業着に備わっている反重力技術で調整されるんだけど、1G未満の場合はどうしようもない。

 少なくとも、今の科学技術では。


「低重力惑星楽しい! 軽い!」


 相棒がなんかはしゃいでる。

 高く跳べることや、周囲の岩石を軽々と持ち上げられるのが楽しいらしい。

 普段なら絶対無理な行動が出来るもんな。


 周囲を駆け回り、無差別に岩を持ち上げている。


 ……まぁ、楽しいわな。

 筋力的に地球じゃできないことができるんだから。


 特に女性は、筋力の伸びが男には敵わないところあるし。

 余計楽しいんじゃないかね。

 ……闘気を併用すれば、併用しない男に迫ることは出来るんだけど、闘気を操れるようになるにはかなり修行しなきゃいかんしなぁ。




 相棒は3分ほど、重力が低いせいで拡大されたみたいに錯覚する筋力を楽しみ。


「じゃあ、バルーンビートルを探しに行きましょうか」


 気が済んだのか、そう言った。

 俺は頷く。


 相棒がハイテンションで騒いでいる間に宇宙船から出して来たバギーに乗り込みながら。


「行くか」


 そう言いつつ、思う。


 ……重力が低いと、移動に違和感あるな。

 軽すぎる、っていうか。




 20分くらいバギーを走らせながら、目的の生き物を探す。


 バルーンビートルは直径40センチくらいの球体という表現がぴったり来る甲殻生物らしい。


 色は緑色、と聞いているので……


 緑色を探す。

 写真は見てない、というかまだ無いんだ。


 この惑星ホシを確保することに専念してた、日本政府の探検隊は蟲の写真の確保をする暇が無かったらしいのよ。

 目撃しただけで。


 余裕が無かった。


 最優先で銀河連合に報告する手続きをしないと、その間に別の国に出し抜かれると事だしね。


 ……領星ってのは、領土と違って奪われる危険性が極めて低い国土だから、余計初動は気にするわ。




 領星は侵略されづらい。

 それは何でなのかというと、防衛がメッチャ難しいからなんだけど。


 前も言ったけど、惑星系は高速で移動するものだから、防衛拠点が置きづらい。

 そして空間跳躍技術がある。


 加えて、先進国各国保有数が半端ねえ。


 そんな中で、他国の領星に手を出して奪う、なんて真似をしたら、自国もされてしまう恐れが出てくるし。

 そうなると領星防衛のために、ものすごい労力を割く必要が出てくる。


 それをしたくないから、どこの国もしない。

 そういう理屈。


 それにさ、未発見の惑星なんてまだまだ掃いて捨てるほどあるのに。

 他国と喧嘩してまで奪いに行く理由も無いわな。


 だから別に平和主義とか、宇宙の聖域化とか。

 そんな綺麗な理由じゃ無いんだな。


 意味が無いし、面倒でやりたくないからしないんだ。




 ……そんなことを考えて周囲を見回しながら走る。


 相棒も全力で探してくれている。


 ……肉眼で。


 大気が無いからヘルメット装着が必須だ。


 なので双眼鏡のような道具が使用できず、肉眼で探すよりほか無くなる。


 ……一応さ、有機物探知機はこのバギーに積まれているけど。

 だから不便じゃないってわけは無いのよ。


 直径40センチくらいの生き物だろ?

 100メートルも離れてしまうと肉眼じゃ見つけにくいわな。


 不安になるが、しょうがない。


 ハンドルを握ってバギーを走らせていると。


「居た!」


 ……隣の相棒が、茉莉が大きな声を出したのが、スピーカー越しに分かった。

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