第37話 理解不能だけど、あるんだよな

 で、アマノ33号に乗り込んで、惑星N-444に出発。


 離陸の際に多少圧力を感じるわけだけど。

 飛行機よりはマシなんよね。

 飛行機は石油で飛んでるけど、宇宙船は反重力技術で飛んでるので。


 前に相棒に何でそうなのかを訊ねたことがあるんだが、その際


「そんなの反重力で飛ぶ方がコスト高いからに決まってるじゃない。地球上での飛行機械は今でも石油一択よ燃料は」


 って言われて恥を掻いた思い出がある。




「何外を見てんの?」


 太陽系を出た後に。


 船のメインルームで簡易椅子に座って外を見てたら。

 相棒にそう言われた。


 俺は


「いや、なんもないなーって思って」


 メインルームでは、宇宙船の外界の様子がモニターに映し出されてるんだけど。

 なーんも無い。


 暗黒空間。


「そりゃそうでしょ」


 相棒は言う。

 宇宙は9割何も無いんだから。

 そんな暗黒空間に、惑星がポツポツあるんだよね。


 ……夢がねえよなぁ……。


 知っちゃいるけど、改めて言われると。


 学生のとき、昔のSF小説を読んでて


 宇宙空間で宇宙艦隊が宇宙戦争をする。


 こういうシーンを読んだことあったんだが


 実際そんな出来事、現実には起きて無いんだよね。

 何でなんだと思ったので、高校のときに物理の先生に聞いたんだ。


 先生、地球では戦争は無くならないのに、何で宇宙空間では戦争が起きないんですか?


 って。


 そしたら


「国生、お前は何も存在せず、位置も定かでは無いようなどうしようもない空間で、人間の集団が殺し合うのがどれだけ大変で、かつそれが意味がある行為だと思うのか?」


 そんな返答が。


 宇宙海賊の話はちょっとだけ聞いたことあったから、何故宇宙空間で戦争しないのか疑問だったんだけど。

 そこで疑問が解けた。


 ……俺としては太陽系みたいな惑星系は不動のものだと思ってたんだよね。

 高校までは。


 でも違ってて。


 実は惑星系も高速で動いてるんだよ。


 昨日の太陽系の位置と、今日の太陽系の位置は違うんだ。


 この状況で、宇宙空間で戦争する意味は無いよな。

 守る対象がギュンギュン動くわけだから。


 サバゲでフラッグがギュンギュン動く状況で。

 フラッグ圏外にメンバーを置く意味は?

 そう考えると分かりやすい。


 守る対象が移動してしまうから、持ち場の概念が出てこないんだな。


『皆さん。そろそろ空間跳躍しますので、準備して下さい』


 そんなことを考えていたら、宇宙船AIのアマノ33号に声を掛けられた。

 そっか、そろそろか。


「分かった」


「分かったわ」


 俺は立ち上がり、所定の位置に簡易椅子を片付ける。


 相棒は先に、自分のセーフティルームに移動する。


 ……空間跳躍するとき。

 念のため、全裸になることになってるのよね。


 転移先で身体に異物が混じる危険性の完全排除のためらしい。

 詳しい理屈は知らんけど。


 世の中、仕組みが良く分からないけど存在しているモノっていっぱいあるよね。


 この空間跳躍の技術もそうだけどさ。

 さっき言った惑星間の航行技術もそう。


 昨日と今日の位置が全然違う目的地を、どうやって特定し、かつ定期的な航行を可能にしてるんだよ。


 人間、パネェな。


 こういうときマジでそう思う。


 俺も大学行きたかったよな……

 こういうこと、理解できるようになりたかったよ。


 そんなことを、自分のセーフティルームで服を脱ぎつつ考えた。

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