第5話 俺たちの仕事は

「……この死骸、あまり痛んでないわね」


 鳥羽は油断ない顔で足元の残骸を調べる。


 ということは……卵は産みたてってことか。

 好都合じゃないか。


 危なくもあるけど。


 俺は周囲のシダ植物を調べる。

 レッドドラゴンの卵は、まんま蟷螂の卵だ。

 あれが大きくなったのを想像してもらったら良い。


 ……で、蟷螂と同じように、1つの卵嚢らんのうに、100から300個の卵が入っている。


 俺たちの仕事は、その卵を持って帰ること。


 その理由は……


「卵から孵ったレッドドラゴン、動物園に売ってしまう以外は冷凍冬眠?」


「どうかなあ」


 鳥羽の言葉。


 ……そう。


 レッドドラゴンの卵を、その幼虫を動物園に売る目的で、ウチの会社は採取しようとしている。

 ウチの会社の仕事のメインはそっちなのよね。


 貴重な素材を剥ぎ取れる獲物として狩猟するときもあるけど。

 大体はこっちだよ。


 ……レッドドラゴンは共食いの習性のせいで、多頭飼いが出来ないから、基本飼育環境下での繁殖が難しいんよな。

 なので1頭飼いで飼い殺し、死んだら新しいのを買って来る。

 そういうスタイルが主流。


 レッドドラゴンは生餌しか食わないので、餌を与える場面が迫力あってどこの動物園でも人気なんだよね。

 その生餌としては、アバドーンっていう体長2メートルはあるいなごみたいな宇宙生物が与えられる。


 レッドドラゴンを飼育するなら、こっちも購入し続けなければならない。

 無論、販売してるのは俺らみたいな会社。

 養殖用に無人惑星を保有して、そこでアバドーンを放牧。

 そういうことをやれる会社。


 本体でも儲かって、餌でも儲かる。


 売る側としては非常にありがたくはあるんだけどさ……


 たまに思う。

 宇宙生物だとはいえ、狩猟免許さえ取ればこんな感じで好き放題狩れてしまう現状って良いのかな?

 地球生物で同じことをやったら、絶対に問題になってるはずなのに。


 ……俺たちは卵を探しながら会話をする。


「でもいきなり全部は売れないだろ?」


「中華料理の食材としてもレッドドラゴンは人気だし……分かんないわよ」


 彼女は卵を探しながらなので、どこか気持ちがあまり入ってない。

 まあ、気持ちは分かるから、俺も黙って探そう。


 デカイ稲荷寿司みたいな卵を探して、視線を走らせる。


 ……レッドドラゴンは1頭50万円くらいで流通してるんだよね。

 なので、これから見つける卵から、300頭のレッドドラゴンが孵化するのであれば……


 50万×300=1億5000万円。


 ……そりゃボーナス貰ってもバチは当たらないよな。

 やる気だって出るさ。


 どこだ……どこだ……


「あっ!」


 そこで鳥羽の声。

 俺は弾かれたようにそっちを見る。


 彼女は


「あそこ!」


 指差す先。シダ植物の幹に。

 確かにあった。


 おおよそ1メートルくらいの大きさがある卵嚢らんのうが。


 おお……


 さっそくはがして持って帰ろう。


 鳥羽が専用のキャリーをバックパックから取り出す。


「ナイフよろ」


「はいな」


 俺は鳥羽から卵嚢らんのうを剥がすナイフを受け取り、するするとシダを這い上がり、シダ植物との癒着部分にナイフを入れる。

 中の卵を傷つけないようにしないとな。


 ……すでに何回かやってる作業なんで、俺は順調にナイフを使って。


 数分後、ミリミリという音をさせながら、シダの幹から卵嚢らんのうを引っぺがした。


「さあ、帰るよ」


 きびきびしている。

 無駄な時間を使ってる余裕は無いからね。


 何故って……


 そのときだった。


 バサバサという羽音とともに。

 飛来するものがあった。


 それは蟷螂によく似た大きな影。

 3メートル台の赤色の身体を持ち。

 6本の脚。前脚には3つの鉤爪。

 尻から伸びる、毒針のついた尻尾。


 蟷螂の顔を縦長にした感じの頭部に、長い触覚。

 そして王者のオーラを放っている、4枚の半透明の広げた羽根。


 ……俺たちのすぐ傍に、この惑星ホシ最強の生物。

 レッドドラゴンの雌が舞い降りて来た。

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