第6話 急襲

 シュウウウウ!


 レッドドラゴンは、獲物を狙う際の特徴的な威嚇のポーズ……羽根を大きく展開したポーズを取った。

 そしてこの特徴的な鳴き声……呼吸音?


 ……レッドドラゴンと立ち合うのは……ものすごく久しぶりだ。

 1年ぶりぐらいかな……。


 いつも、卵を採取してサヨナラしてたからさ。


 俺は足をたわめ、戦闘準備に入った。


 ……正直、タイミング的に最悪のタイミングで遭遇したと思う。


 レッドドラゴンは他の生物同様、産卵は命がけというか、全エネルギーを投入して行うんだわ。

 なので、産卵直後は極度のエネルギー不足で飢餓状態にあるんだな。


 ……だから今、目の前のこいつはおそらく極限まで飢えているんだよ。

 たった今拝借した卵の産み主はおそらくこいつだろうし。


 そういうわけで、何が何でも俺たちを喰おうとしてくる。

 諦めてはくれない。


 だって、今喰わないとこいつも死ぬものな。


「鳥羽、卵が戦闘に巻き込まれない位置に頼む」


「うん、分かった」


 気をつけてね。


 そういい、キャリーに載せた卵を物陰に隠すために動き出す鳥羽。

 そんな鳥羽を逃がすまいと


 キイイイイイ!


 妙な羽音を立てて、飛び掛かろうとするレッドドラゴン。

 俺はその前に回り込んだ。


「そういうわけにはいかないんだ。悪いな」


 俺の言葉は当然無視し、レッドドラゴンは鉤爪のついた前脚を振るって攻撃してくる。

 俺はそれを腕で受ける。


 ……ものすごい力だ。

 そのまま力比べに移行する前に、流すように捌いた。


 そして油断なく、レッドドラゴンの緑色の複眼……瞳のように見える、背筋の寒くなる眼……を見つつ考える。



 俺の拳・阿比須龍拳には致命的な弱点があるんだよな。


 それは……


 攻めの奥義を使うとき、俺の身体を鉄壁の防御で守っている「奥義・鉄身五身」が途切れることだ。




 俺の流派・阿比須龍拳は暗殺拳。

 その拳に掛かった者は、突然死か事故死、病死に見える様な形で命を落とす。

 まさか格闘士グラップラーの拳に掛かったという風には思えない。

 そうした形で相手を倒すことを主眼に置いた拳法だ。


 ……初代様は一体何を考えて、こんな拳法を作ったのか。

 本当に理解に苦しむ。

 ……元々活人拳だったんだよな?


 ……話を戻す。

 そういう特殊な拳を極意とするせいで、攻撃系奥義を使用するとき、防御の奥義の基礎の基礎である「鉄身五身」が外れてしまうんだ。

 宇宙生物を相手にするときに、これは無視できない問題だ。


 キイイ!


 レッドドラゴンの猛攻。

 俺はそれを捌きながら、レッドドラゴンの隙を伺っていた。


 冷静に敵の攻撃を防ぎ切れば、必ず攻めるポイントは見つかるはず……!


 こいつらの外殻は硬い。

 体感で鋼鉄かと思えるくらいだ。

 あくまで体感だけどな。


 ……鳥羽がレイガンで援護してくれるとありがたいと思ったけど、この外殻を撃ち抜くのは無理かもしれない。


 って!


 ガキッ!

 マズい……!


 うっかり捌き損ねた!

 純粋な力比べに巻き込まれてしまった。


 じりじりと上から圧し潰される。

 俺は鍛えているけど、こんな大型昆虫に押し勝てるほどじゃない。

 一瞬で潰されないだけ、俺はマシだと思うんだが……!


 俺は一瞬思案して。

 決断した。


 ……阿比須龍拳奥義・異世界転生蹴いせかいてんせいしゅう


 2トントラックにフルスロットルで撥ねられたのと同じ結果をもたらす奥義の蹴り。


 俺はそれをレッドドラゴンの後ろ脚4本のうち、2本に足払いの意味合いで繰り出す。


 それでレッドドラゴンは身体が一回転し横倒しになった。

 自分に何が起きたのかを理解できていないレッドドラゴン。


 そこに。


 光線が飛んできた。

 

 ……レッドドラゴンの複眼に。

 複眼をやられ、レッドドラゴンは大きく暴れ始めた。


 身体にはレイガンのビームは効果無さそうだけど、眼なら大丈夫だな確かに。

 だって光は通すからね。

 確実に。


 ありがたい……!

 俺は相棒に感謝した。


 俺はそこに追い打ちを掛ける。

 そこに飛んでくる相棒の言葉。


「リューイチ! レッドドラゴンの一番大きな神経節は胸部にあるよ!」


 ……そうだった!

 俺は狙いを頭部から、胸部に変更する。


 阿比須龍拳奥義・脳髄粉砕!


 俺は闘気を込めた突きを、横倒しになって暴れているレッドドラゴンの胸部に打ち込む。

 その一撃はレッドドラゴンの手足の動きを停止させ。


 さらに追い打ちで頭部に打ち込んだ一撃は、レッドドラゴンを完全に沈黙させた。

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