第4話 鳥羽という女
レッドドラゴンは、その生態も蟷螂に似ている。
……つまり、共食い上等なんだ。
自分以外の動くモノは全て餌。
例外は、成熟して発情に至ったときに異性と出会った場合のみ。
そのときは共食いでは無く交尾が起きる。
だけど……
交尾が済むと、雄は雌に喰われるんだ。
蟷螂同様に。
で……面白いことに。
雄を喰い殺すと、レッドドラゴンの雌は即座に産卵に入るんだな。
……何でかっていうと、雌同士が出会っても共食いが発生するからだというのが生物学者の見立てだとか。
まぁこの辺、鳥羽の受け売りなんだけど。
つまり、折角交尾して産卵が可能な状態に移行したのに、その段階で共食いされれば自分の子孫まで一緒にあの世行きじゃないか!
そういう思いだろうか?
習性に沿った、悲しい進化と呼べるかもしれない。
なので、レッドドラゴンの卵を探す場合、シダ植物群の幹を探すのが方法としては一番正しい。
だけど、現実的には地面を探すのが一番早いんだよな。
……レッドドラゴンの雄の残骸が落ちていたら、高確率で近くにレッドドラゴンの卵があるはずなので。
「そういやさ」
「何?」
一緒に、雄のレッドドラゴンの残骸を探しつつ。
俺は鳥羽と雑談に興じた。
ふと思って、質問してみたいことがあったから。
「何で宇宙生物ってほとんど蟲なんだ?」
そう……
最初に見つかった宇宙生物は、木星の衛星のエウロパの海に棲んでいた生物。
エウロパスネークって呼ばれる手足の無い海蛇みたいな生物だった。
まあ、顎が無い生き物で、海蛇っていう表現は適当じゃないかもしれないけど。
5メートル超の竹輪って表現が一番適当。おそらく。
こいつがエウロパにいる唯一のプランクトン以外の生物。
見た目は5メートル超の大海蛇。
主食はプランクトン。プランクトンを喰って、日々寝て過ごしている存在意義を疑われる生き物。
こいつくらい。
他は蟲……所謂外骨格生物ばっかり。
もっとも、このエウロパスネーク……こいつは骨が無いので軟体生物。
脊椎動物である宇宙生物は、今のところ俺は知らないんだ。
すると
「……そもそも、外骨格生物は地球産の動物じゃないんじゃないかって説が大昔からあってね」
鳥羽が話してくれる。
宇宙生物の話を。
「……蟲は地球外からやってきた生き物ってこと?」
鳥羽は頷いて。
「その説は一旦否定されたりもしたんだけど……実際に宇宙生物を目に出来る時代が到来してからは、また盛り返して来てさ」
今はどうにも決着がついてないらしい。
で、鳥羽としては……
「……私は単に脊椎動物が生物界のレアケースってことなんじゃないかと思うの」
楽しそうに自説を話す。
私たちは生物という世界ではレアを引いたんだよ。生物ガチャがあったとしたら。
生物ガチャ……
確かにそうかもな。
あまりにも蟲ばっかりな宇宙生物の真実を知ると、特にそう思うよ。
あと……
「知的生物もいなかったってのがな。蟲の中で知性に目覚めた生き物ってのが何故いなかったんだろうな」
そう何気なく呟くように言ったら
「そこは分からないよ。確かに文明を持ってる生き物にはまだ人間は遭遇していないけど」
知性と文明は別だと思うんだよね。
感情や言葉を持ち、それを表現したり会話できるならそれは知性じゃない?
私はそう思うんだけど。
「言葉を持ってる蟲っているの?」
「ハエトリグモと、あとゴキブリが……蟻の一部もそうだね」
無論、私たちみたいな音声を使った会話じゃないよ。
ジェスチャーみたいなものだったり、フェロモンみたいなものだったり。
それで意思疎通してるんだとしたら、それは知性なんじゃないかな。
あ、あとさ。
象なんかすごいよね。
彼らは仲間の死を悼む習性があるのと、八つ当たりをする習性があるんだよ。
すごいと思わない!?
……めっちゃ早口。
鳥羽は間違いなく美人なのに、恋人がいる様子が無いの、この辺が原因かもしれないなぁ。
大昔なら「美人なのに婚期を逃し、一生独身で過ごす」ということに赤信号が灯るパターンだったのかもしれない。
今は人工子宮って最終手段があるから、致命的な危険性では無いんだけど。
……鳥羽は結婚する気はあんのかな。
ふと思ったけど、こういうのはセクハラになるし。
それに関しては、訊くのはやめといた。
「あ」
そのときだった。
俺たちの目の前の地面に、赤く大きい蟲の破片が落ちていた。
脚の断片だろうか。
爪の欠片も落ちている。
……多分、雄のレッドドラゴンの残骸だ。
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