第83話 想像つかんのか

「怖いだろそんなのがウロウロしてたら」


 俺の言葉が飲み込めないようで


「何故でございます? ビスケット・ニクダルマは合衆国ステイツ守護者ガーディアンで、正義の味方でございましたですが?」


 ……想像がつかんらしい。

 この辺、武芸者の問題点か。


 自分たちが切った張ったな世界で生きてるから、暴力に耐性があるので非武芸者ノンケの気持ちが理解できない。


 俺は無駄だと思いつつ


「普通の人は法律の外にいる人間が存在を許されているって事態は、恐怖以外無いんだよ」


「何故です!? 腕力家は無差別に人を襲うと!? それは言いがかりですぞ!」


 ……何かキレられている。

 あのなぁ


「その気になれば自分を一方的に殺せる相手とアンタは普通に話せんの?」


 一応訊いてみた。

 すると


「話せます」


 即答。

 ……言うと思った。


 格闘士グラップラーや武芸者しか通用しない感覚を一般化するな。


「ああ、もういい。……悪いがアンタのドリームとやらは俺が叩き潰す」


 俺は対話を諦めた。

 俺は速やかに構えを取り、戦闘体勢を整える。


 リンフィルトは


「ご挨拶ですぞ。寝言は寝て言えでございます」


 不敵な笑みを浮かべ、金属糸の操作を再開。


 ……厄介な武器。


 ただ、ちょっと思うところがある。

 創作物では無敵の強さを持つ設定にされがちな武器・金属糸。


 だが現実にそれはあり得るのだろうか……?


 ……そういう風に思えて来たんだ。

 リンフィルトと会話している間に。


「Abyss Zokumetsu Style ultimate attack! Daruma fell down!」


 両手を広げた大仰な仕草で、リンフィルトの奥義の発動。


 多分、達磨転倒だるまさんがころんだ


『だるまよ』


 空かさず茉莉の通訳。

 だよな。


 ……リンフィルトの金属糸は、動いて無ければ視認はできるんだよ。

 つまり、太さは結構太いんだ。


 創作物だと見えないほど細いのがあるあるだけど。

 実際に金属糸で何かを切断するとなると、細さと強さの両立が必須だからだろうけど。


 彼女の金属糸攻撃は、闘気を流すことで操作し、同時に切断力を上げ、加えて対象に痛みを与えない効果までつけている。


 ……明らかにキャパオーバー。


 そこからの予想だけど……


 そのとき、俺の身体に糸が巻き付く感覚があった。

 ……来た。


 それなりの太さがあるから、集中すればできないことはない。


 そして、ここからが俺の予想。


 俺は……


 



 ……色々やり過ぎなんだよ。

 そうなると、広く浅く。

 そうなると思うんだ。


 つまり、技の強度が甘くなる。


 果たして……


「Unbelievable! Why can't I cut you!?」


 自分の奥義が通用しないことに驚愕し、何かを英語で叫ぶ。

 ……阿比須相手の戦闘経験が無いのかね? 彼女。


 俺はそういう想定の稽古はしてきたし、実際リチャード相手に経験がある。

 俺は間合いを詰め、彼女に迫り


 奥義を使わず、彼女の足を狩る横薙ぎの下段蹴りを放った。


「No!」


 彼女は一回転し、地面に倒れた。

 鉄身五身をしているから、地面に落下したダメージは無いはず。


 だが、ショックはある。


 転倒のショックで、金属糸が解けた。


 今だ、と思った。


「阿比須龍拳奥義! 達磨転倒だるまさんがころんだ!」


 俺はその隙を逃さず、奥義の手刀で金属糸を切断する。

 闘気を流せば操作はできるが、長さまでは操れない。

 そして、長くない糸では攻撃は不可能。


 ……これで彼女の金属糸はもう使えない。


 そう言う意味を込めて彼女に視線を向けると。


「アビスリューケン……?」


 彼女の目には動揺があり。


 カシャ、という音がした。


 ……彼女のベルトのバックルが開いた音だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る