第92話 怪人兵器
それは、直立した人型の蟲だった。
ちゃんと手には指が5本ある。蟲っぽい造形だけど。
足には踵があった。蟲っぽいけど。
だから日本語訳の怪人兵器って良い訳だと思う。
英語だと
なんというか……無機質だわな。
あまりこの生物兵器の本質を表していない気がする。
顔面はコオロギに似てる気がした。
ひょっとしたらリオックってやつかもしれない。
前に茉莉の話で出て来た地球の最強の肉食昆虫。
体色は緑。
手足に髭みたいなものが生えていて、なんかゴキブリを連想する。
そして両手両足。その四肢の中間。
つまり脇腹。
そこから触手みたいな
例えると、2匹のムカデ。
そう形容したくなる肢だった。
脇腹の肢の先端には、牙のような爪? がついていたから。
そこにどう考えても試合開始の合図のアナウンス。
『Let's start the match! Please seriously fight for your life! Good luck!』
俺は構えた。
猫足立ち、半身。
拳を構えて、相手の出方を伺う。
怪人兵器は脇腹ががら空きの構えを取る。
脇腹から生えているムカデのような触手2本をうねうねと動かしながら。
そして
「Come on, show me your expression of despair」
……ん?
怪人兵器が何か言った。
結構流暢。
話せるのか……。
ああでも、当然かもしれないな。
言葉が通じないと作戦行動が出来ないし。
触れ込みが「最強の歩兵」だったしな。
確か。
そんな感じで、俺が怪人兵器の言葉に反応を返さないでいると
「Shit. Don't you understand English?」
……なんか不機嫌な感じで英語の発言。
イングリッシュが聞き取れたし、そもそもこの国は公用語英語だしね。
だから
「アイドゥノットスピークイングリッシュ」
……典型的日本人的返答。
すると
「……Japanese?」
ジャパニーズ言われたから
「イエス」
応える。
すると
「……日本語、キライ。面倒。ムツカシイ。言葉の攻撃、ムリ」
怪人兵器からそんな返答が。
ああ、そういうつもりだったのか。
英語が通じる相手には、言葉嬲りをしながら戦うのがこいつの趣味だったけど、日本語だとそこまでの語彙がこいつには無いんだな。
多分。
……それは……
良いことを聞いたかもしれない。
俺は
「スロウに話す。あいきゃんあんだーすたんどイングリッシュ」
こう言い。
さらに
「ワード、チェンジジャパニーズ、アイ、アンダースタンド、イージー」
……俺としては、スロウに英語を話すか、単語を日本語にしてくれと要求。
そうすれば俺にも理解できると。
正直さ、勝率は上げておきたいんだ。
この仕合での敗北は死、だからな。
言葉嬲りなんて、脳の容量使うし。
そこにさらにスロウだとか単語変換だとかの制限が掛かれば
そうすれば攻め易くなって助かる。
……さあ、どうする?
「OK」
オーケー。
なるほどね。
舐められたもんだ。
確かここ10年くらい、連勝中なんだよな?
せいぜい、最強の怪人兵器の貫録を見せてくれ。
……俺の方は油断しないからさ。
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