第101話 気持ちは嬉しいけど
「えっと」
茉莉はちょっとどう返していいモノかどうか戸惑っていた。
……自惚れでは無いと思うんだが。
俺と茉莉は、仕事の相棒として十分な関係性があるし。
そして妹の人生相談に乗れるだけの関係性も妹……龍子と築いている。
だけどさ
だからと言って「兄と結婚して欲しい」っていうのは飛躍し過ぎだろう。
そういうのは別に「それが、茉莉からの俺と結婚しても良いという意思表示」じゃないんだから。
そしてそれ、ついでに言うとお前の願望だろ。
茉莉が義理の姉なら、義姉妹問題で自分は苦労し無さそうっていう。
気持ちは分かるけどな。
俺だって、お前の彼氏に会う前はそれなりに緊張した!
もし、破滅的な奴だったらどうしようとか考えた。
実際に会ってみて、俺に敬意を払う常識は持ち合わせてるし、お前のことを大切にしてくれそうだし。
特に問題無いから、このまま行ってくれるとありがたいなと思ったんだ。
義兄弟になっても揉めなさそう、って。
だけどさ
妹と結婚してやってはくれないか?
とは言えないわ。
結婚は重大イベントだ。
軽々しく要請して良いもんじゃない。
基本、外圧無しで決めるもんだろうが。
だから
「おい龍子」
……と。
俺は妹を
だけどさ……
あ、これはこれで言えないわ。
直前で気づき、言葉が止まる。
窘めたら、まるで「俺としては茉莉が女として無いわ」って言ってるようなものじゃ無いのか……?
俺と茉莉の成婚を阻もうとしてるんだから。
とはいえ、うーん……
そう、俺が身動き取れなくなっていると。
茉莉が
「龍子ちゃんのそういう発言は、光栄ではあるかな」
妹の言葉に返答したんだ。
こんな感じで。
私は一人っ子だから、感覚は想像でしか無いけど。
自分の兄の結婚相手になって欲しいなんて。
それは自分の家族を私に任せても良いって意思表示。
それだけの信頼が私にあるってことよね。
……っていうようなことを。
「だけど」
ここで茉莉は言葉を切って
「そこで私がOK出したら、お兄さんの意志はガン無視よね。それに……」
それにお兄さんが重ねてOKを出したとしたら、お兄さんの結婚は他人に決めて貰ったもので、お兄さんは自分の人生の重要な決断を、外圧に負けてしてしまった、ってならない?
……この一言。
だいぶ龍子に刺さったようで。
龍子はしばらく沈黙し
そして
「……私が病気に敗北してしまったら、ウチの家の家名を継げるの兄だけなんで……」
そう、本音の一部を吐き出した。
……やっぱその辺考えていたか。
龍子は
家が絶えるってやっぱ、嫌だよな。
大した家でもねぇけどさ。
所詮、平民の家だし。
由緒正しい家柄でも、皇族の家でもないんだ。
でも、嫌なもんは嫌だよな。
さらに妹は必死な感じで
「だから焦って、茉莉さんをお義姉さんに欲しいと思って……」
弁解混じりの、思いのたけを口にする。
それに対して茉莉は
「うん。そこは嬉しい。本当に」
そんな妹の言葉を、微笑んで聞いてくれた。
「あ、でも」
自分の危険な発言に対する誤魔化しのつもりなのか。
龍子は
「茉莉さんが一人っ子だったら、ウチの兄は婿養子に行かないといけないし、どのみち私が病気に負けたら家が絶えますね」
ハハ、とギャグっぽく言ったんだ。
その言葉に、茉莉はこう言った。
「そんなことは無いわよ。私が2人以上子供を産んで、1人私の実家に養子に出せば良いんだから」
……ニコニコしながらそんなことを。
流石というかなんというか。
現行法でも問題なく問題を解決できる方法を即座に思いつける当たり……
彼女、頭良いよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます