第100話 重さへの理解
「リューイ……ええと、あなたのお兄さんは……ものすごいリスクを背負って権利を取って来たのよ。そこは理解して欲しい」
茉莉のそんな言葉に
「……我儘言うなってことですか?」
妹の返し。
その返しに茉莉は首を左右に振り
「そうじゃない」
ついでに手も振って否定して
「感謝して欲しい……ああ、違うな。あなたが蹴ったものの大きさを、自覚して欲しい……これが一番近いかな」
そう言ってくれた。
……俺が心の底で、内心思っているであろうことを、代わりに言ってくれたか……
別に要らないことではあるけど……
少しだけ、いや……少しなんだけど、なんだか決定的な何かの「少し」
嬉しかったんだ。
「それって遠回しに同じことを言ってるんじゃ」
妹の声に苛立ちが混じった。
でもそれに関しても茉莉は
「全然違うわよ。相手の想いが大きいのならば、それに物理的不利益を被るような正当な理由が無い限り、必ずそれを受け止めないといけない……そんなルール、無いから」
妹に正面からの視線を向けたまま、ハッキリ言った。
そしてこんな例え話をした。
「例えば、自分の子供を救うために、他人の子供を貧困国から買ってきて、その子の全部の内臓を自分の子に生体移植する」
そんな願いを持ったお金持ちが居たらどう?
あなたが医者だとして、それは絶対に受け入れないといけないのかしら?
そんな例え話を投げ掛けられ、妹は
「それって絶対に犯罪だし、そもそもクローン技術が……」
妹の反論。
それに茉莉は
「そこは全てそのお金持ちがクリアしてる、もしくは使えないこと前提で考えて」
そう、ピシャリと。
そしてそう言われて、妹は真顔になり
「……嫌だって言います。人殺しはしたくないから」
そう、自分の返答をした。
そんなお金持ちなら、私が断ったら別の人に同じことを言うに決まってるけど。
それでも嫌なものは嫌。したくない。
そういう言葉も続ける。
それに対し
「そのお金持ちが、自分の子供をものすごく大切に思ってて、手術しないとその子が死ぬとしても……?」
少しだけ、意地の悪い表情を浮かべて茉莉。
だけど妹は
「……はい」
ハッキリ言った。
それに対して茉莉は頷いた。
「別にそれはね、自由なのよ。大きな気持ちはそれで自分が実質的不利益を被る可能性が無い限り、絶対に蹴ってはいけないなんてルールは無いんだから。信念で蹴るのは自由なのよ」
そう、笑みを浮かべて言って。
ただ、と続けて
「その結果は当然受け入れないといけないし、自分の蹴ったものの大きさを知らないとは言うべきでない。それだけの話」
そんなことを。
「……それは、さっきのお金持ちの話だと、そのお金持ちの子供が死んでしまった場合、恨まれることは覚悟しないといけないし。もしそうでなくても、その子供のお葬式に出るようなことはできない……そういうことですか?」
……妹は茉莉の話を受け止めて、そう咀嚼したことを口にする。
茉莉は頷いた。
「そうそう。そういうことよ」
そして微笑んだ。
そこに訪れるしばらくの沈黙。
やがて……
「私だって、人工子宮で赤ちゃんを作ると、うっすらと差別される子供になってしまうのは理解してます。だから……」
彼氏には、高校生では早いと思うけど、私のことは奥さんとしてアリかどうか、そういう目で見て欲しい。
そして無理だと思ったら即捨てて欲しいって言ってます。
そんなことを口にする。
……ああ、
可能な限り、病気に人生を喰われないための対処法を。
「へえすごいわね。そこまで覚悟して対応してるなんて」
それを聞いた茉莉は、感心している声音でそう返す。
まあ、病気のことを考えたら遊びの男女交際をする余裕がないわけだから、そう動くのが理想にはなるはずだけど。
高校生なんて全然子供だし、普通そこまでは考えないわな。
そう思いながら俺は、隣で2人の会話を聞いていた。
茉莉をボーッと眺めながら。
するとだ
突然、妹がこんなことを言い出した。
「……茉莉さん。できれば私のお義姉さんになって貰えませんか?」
……は?
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