第102話 妹のバイトの話。
そしてまた、休日が終わり。
仕事の日々が戻って来る。
妹はバイトを探して、稼ぎ始めた。
俺は「そんなことしなくていい」って言ったんだけど
「お兄ちゃんの提案蹴っておいて、お金だけは頂戴はどう考えてもおかしいでしょ」
そう言うんで、しぶしぶ許可した。
とはいえ、5万円稼ぐバイトってなかなか無いんだな。
俺、バイトの経験が無いから知らんかったんだが。
3万円くらいが常識で、それ以上は学業に支障が出るか、よっぽどのレアケース。
もしくは犯罪。
……らしいんだよ。
なので
「5万円に拘るな。学業と両立できることを前提に考えろ」
そう言った。
毎月のYH病の発病を抑制する薬の代金5万円。
そこにサポートするお金が入るだけでも十分助かるから、と。
で。
毎月、3万円から3万5000円くらいのお金が、俺の口座に振り込まれてくる。
バイトの給料の受取口座、俺の口座にしてんだな。
そしてそこから、妹の日々の生活費と、病院からの請求金額がカード会社経由で引き落とし。
数字の面で見ると、なんか無駄なことをしてる気がするのが笑えるよな。
そんなことを、俺の携帯端末に表示させた銀行の預金残高の履歴を見ながら考えていたら。
「そういえば、龍子ちゃんのバイトって何なの?」
俺の相棒の茉莉が
アマノ33号の倉庫内からモップを持ち出して。
さっきうっかり彼女が床に零したミルクココアの粉を掃除しつつ。
俺を振り返り、一言。
俺は彼女に目をやり
「ウエイトレスって言ってた」
そう答えを返すと
「……ウエイトレスかぁ」
難しい表情で。
キミは妹から訊いて無いのかよ、とちょっと思ったけど。
ちょっとそれは踏み込み過ぎ。
そんな想いがあるのかね。
人間関係の距離感って、間違うと色々悲惨だしな。
……今、俺たちは例によって仕事で。
アマノ33号に乗り込んで、日本の領星に向かってる。
目的地は惑星E-101だ。
そう……レッドドラゴンが棲息してる
しかし、今回はあのときのように目的はレッドドラゴンの卵じゃなくて……
バレッドビートル。
そう。
音速スレスレで飛行して、煙草を吸ったら突撃してくる、喫煙者には超迷惑な甲虫。
国の研究機関が、何かの研究でそれのサンプルを数匹取って来て欲しいと言い出して。
それで俺たちに仕事が回って来たわけだ。
……話を戻して。
妹のバイトはウエイトレス。
そんな俺の答えを聞いて、難しい顔で思案していた茉莉は
「ウエイトレスってバイト、可愛くないとなれないんだけどさ」
……そりゃそうだろうな。
ロボットを使った方が安上がりなのに、わざわざ人間を使う理由。
それは、人間に給仕してもらいたいからだろうし。
そうなると、より可愛い女でないと難しくなる。
自明の理だわ。
可愛いという、ロボットに無い人間の女の子特有のメリットが無いなら、雇う意味が無いんだよ。
で、それに何か問題でも……?
茉莉は俺の答えに、ずっと複雑な表情を浮かべていて
「……龍子ちゃんの町って、食が死んでるって言って無かったっけ?」
「うん」
言ったね。
ケンチキとマックと、焼き肉屋しかまともな飯屋が無いって。
それが何か?
ちょっと何を言いたいのか分からないので訊き返すと
かなり言い辛そうに
「……食べ物を売りにできない食べ物屋が、ウエイトレスを雇う理由って何?」
あ。
……彼女の言わんとすることに思い当たり、血の気が引く。
そっか……
ひょっとすると、性搾取の可能性があるのか……!
食べ物で客を呼べないなら、可愛い女子で客を呼ぶ。
それは給仕という行為だけで済むならまだ良いけど……
性サービスの強要なんてあったりしたら……!
……迂闊だった。
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