第51話 交渉決裂ってさ

「You slut!」


「Coward. You can't fight my lover. You definitely go home crying.」



 何か、日本語で罵倒した後。

 相棒はスッと笑顔になって、英語で何か言い始めてさ。


 そのままなんかベラベラ、俺に分からない言葉でしゃべり始めて。


 で。

 すると


 みるみる、あの白人の男がキレはじめたんだ。


 相棒を指差し、必死で喚き散らしはじめた。

 英語で。


 そして相棒は笑顔でなんか言い返してて。

 英語で。


 ……想像だけど、多分相棒は相当ひどいこと言ってる気がする。

 知らんけど。


 とても穏やかな口調で、両手を広げながら日常会話してますよ~みたいな顔で言ってんの。

 多分喋ってる内容は違うんだろうけど。


「Bitch! Go to hell!」


 するととうとう、白人の男が怒鳴りながら手に小さい棒を持って振り始めたんだ。

 その途端


 ギイイイイ!


 白人男の傍にずっと控えていた、4メートル級の巨大蟲が妙な音を立てつつ動き始めた。


 その蟲は……


 巨大なコオロギに似ていた。

 で、8本の脚の前2本が鎌になっていた。

 後ろ6本の脚はなんか、ゴキブリに似ている気がする。


 そして全体的な色は灰色。


「あー、惑星A-555原産の肉食生物のラークシャサね。アメリカの領星だったわ。アイツの正体ほぼ確定よね」


 ……確かに。

 宇宙の守護者スペースガーディアンの本部、ワシントンにあるらしいしな。


「さてリューイチ。交渉は残念ながら決裂したわ。あの(ピー)のペットをぶちのめして」


 言いながら俺の背中をグイグイ押し始める。

 いや、キミは絶対交渉してないよね?


 絶対、相手の発狂に導く、かなり酷い言葉の暴力を仕掛けたんだよね?

 あの白人男の様子を見るに、そうとしか思えないんだけど!


 動画配信で報復しようとせずに、実力行使をしようとしたのは、多分自分の発言を削ると彼女の発言がわけわかんなくなるか、それでも自分の発言を類推される言い方したからだな。


 とりあえず、俺は脇を上げ、拳を構える阿比須龍拳の構え……強襲の構えを取る。


 ……宇宙の守護者スペースガーディアンの、命に係わる嫌がらせのひとつ。

 それのひとつが、この「蟲使い」なんよ。


 理屈は良く分からないんだけど、あの棒を動かすことにより、調教した蟲を操作して、それで他人を襲わせるんだ。

 でな、最悪なのがさ


 これは技術だから、証拠が残らんのよ。


 あのラークシャサを操ってるのは、あの白人男なのは間違いないんだけど。

 だからと言って、蟲使い本人を先に叩くと、これは暴行罪問われるのよね。


 あいつら、自分が叩かれたら「何もしてないのに、いきなり殴られた!」って主張するんだわ。

 技術で蟲使いした証拠は残らないもんだから。


 位置付け的には「飼い犬が暴れ出したからという理由で、いきなり飼い主を殴りつけた」ってなるわけ。

 このケースだと、飼い主に責任はあるけどさ……

 犬を黙らせるのに、飼い主を殴る正当性は無いわなぁ。


 なので蟲の方と戦うしかない。

 ホント、面倒な……

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