第11話 ハクタクという生き物

 ハクタク。

 こいつは甲虫なんだよね。


 姿は……


 カブトムシとクワガタがベースになってる感じで。

 大きさは約4メートル。

 6本脚の巨大昆虫。羽は無い。


 目が頭部に3つ、身体の両側面に3つずつ……計9つある……ように見える。

 本当は頭部の目3つしか無いんだけども。

 あとは甲殻の模様。

 敵の襲撃を防ぐための、敵を騙すためのレベルの高い甲殻の模様だ。

 角は2本。形状と性能はクワガタの顎に近いんだけど、生えてる位置が角というのが最も適当なんだよな。


 白っぽい色の甲虫で、頭部に人面に見える模様があり。

 そして都合の良いことに、目が3つ目人面に見える位置についてるのよな。


 で。


 この3つの目だけど。

 2つは普通に使う複眼で。

 残り1つは惑星H-232の太陽の位置を感知するための目……単眼らしい。


 何で太陽の位置を探るのかというと、1年の季節の流れに対応していくためでは?

 そういう宇宙生物学者の見立てだ。


 ……例によって、鳥羽の受け売りだけどな。




「ハクタクだけど」


 メインコンピューターにディスプレイされる航路の進捗状況を見つめつつ。

 俺は言ったんだ。


「白って自然界では不利になるって聞いてたんだけど、違うのか?」


 俺たちはすでに惑星H-232に向かう宇宙船に乗っていた。

 俺は資料を一通り読んだので、こうして航路の進捗状況を見ていたんだけど。

 

 鳥羽は違ってて。

 そんな、資料を読み込んでいる鳥羽に、遠慮がちに俺は訊いた。


 鳥羽は資料から顔を上げ


「地球の環境だったらそうだね」


 そう、ボソリと答えてくれる。


 彼女は、言った。


「惑星H-232は砂が真っ白なんだよね。その砂で作られた、砂漠が生活環境のほとんど」


 だから惑星H-232では、白が保護色になるのよ。

 ……なるほど。


「地球のハウスルールを、宇宙全体に拡大するのは間違いだよ」


 ……確かに。


 鳥羽の話は面白いわ。


「ああ、後」


 俺をじっと見て


「……ハクタクは肉食で、角のような大顎で捕らえた獲物に、口吻を突き刺して消化液を注入。瞬く間に獲物の内側をドロドロに溶かして、その溶けたエキスを吸い取って食事するの」


 うん。資料にも書いてたよな。

 そのえげつない食事方法。


 それは……


「ガードよろ、だよ? 私だって死にたくないんだから」


 そう念を押される。

 まぁ、それは当然で……。


「当然やりますよ。当たり前だろ」


 俺は頭に手をやりながら、そう返事した。

 当たり前のことを聞くな、という調子で。


 ……しかし


「そんな危険な生き物に、姿形がなんとなく伝説の生き物に似てる気がするからと、ハクタクという名前をつけて……」


 挙句の果て、運気と健康が良くなる気がするから、何が何でも手に入れたいとか。

 やってること、1000年前から人間って変わらないんだな。

 たまに思うよ。


 そんなことを鳥羽に愚痴る様に言うと


「……人間なんてそんなもんよ。そこが良いとこだとも思うけど」


 彼女は何故か楽しそうにそう答えた。

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