第12話 白い惑星

 俺たちは無事、目的の惑星「H-232」に到着した。

 例によって着陸時にワチャワチャやって、俺たちの会社の制服である宇宙服……作業着に着替えて、タラップを下ろして外に出たら。


「見事なまでに真っ白な世界だな」


 鳥羽に事前に聞いた通り。

 純白の砂で構成された砂漠の世界。


 ところどころ、緑色の大きな多肉植物……サボテンが生えている。

 これがこの星の植物なのかね?


 そんなことを、景色を眺めながら考えいると。


 タイミング的に少し遅い感じだけど、鳥羽が自分のバックパックに色々装備を詰め込み直していて。

 今回、その中にバッテリーが無いことに「おや?」と思った。


「……レイガン持って行かないの?」


「どうせ通じないから」


 ハクタクは甲虫で、その装甲が厚すぎるのよ。

 作業しながら。


「代わりにガス兵器をいくつか持って行くわ。そっちの方が絶対に役に立つし」


 得意なのはやっぱりレイガンだけど。

 ……うん、それは知ってるけどさ。


 彼女のレイガンの腕は素晴らしいのは間違い無いから、少しだけ何か惜しいんだよな。




 砂漠を歩くので、日差しを防ぐ意味でヘルメットを装着する。

 視界がちょっと悪くなるので、気にはなる。

 ちなみに全く暑くはない。

 適切な温度であり、湿度だ。

 そう、調整してくれるんだ。


 そこで鳥羽の言葉。


「会話がマイク越しになるのがやっぱり嫌よね」


 確かにな。

 温度環境は快適だけど、この閉塞感はいただけんわ。


 ……それはそうと


 俺たちはハクタクを見つけられるだろうか?

 ハクタクは確か……


「……ハクタクって普段は砂の中に隠れているんだっけ?」


「うん」


 聞いた話だと。

 ハクタクは狩りをするとき……つまり普段は砂の中に隠れていて。

 獲物が近くを通ると砂の中から飛び出して来て、獲物を捕食するらしい。


 それ以外は基本的に外に出てこない。

 いつも隠れている。

 ……太陽の位置を確認するという、3つ目の目である単眼だけを外気に晒して。


「ハクタクの普段の獲物って何なの?」


 俺の問いに、鳥羽は即答する。


「ホワイトワーム」


 ……ホワイトワーム。

 どんなんだ?


「サボテン食べて生きてる巨大芋虫」


「じゃあ、まずはそいつからか」


 ……うん、そうだね。


 俺の言葉に、鳥羽が少し弱々しく返事をする。

 少しだけ、どうしたのかと思ったが……


 実際にホワイトワームを見たとき。

 納得してしまった。


 ……うわあ。




 ホワイトワーム。

 地球上の虫で、こういう姿の成虫って居るのかね?


 ひらたく言うと……白色の巨大シャクトリムシなんだな。2メートルくらいの。

 で、鳥羽曰く「あれで成虫の姿なのよ」だって。


 で、その姿を見て。

 鳥羽はぶるぶる震えていた。

 宇宙生物が好きで、そのためにこの仕事を選んだ彼女が、だ。


 まあ、気持ちは分かるけど。

 あまりにキモいからなぁ。


 ……特に歩き方が。


 所謂シャクトリムシウォークって、何であんなにキモいんだろうか。

 鍛えられていないと、悲鳴が出るわ。


「砂が熱いから、なるべく素肌に触れないように歩くことを主眼に置いた、進化した歩き方なんだと思う」


 ……なるほど。


 彼女の言葉に納得すると同時に、キモくても観察眼を失わない彼女に、俺は少し敬意を持ってしまった。

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