第13話 油断大敵
目の前で純白の芋虫・ホワイトワームがサボテンをガリガリ齧っている。
サボテンには棘が生えてるんだけど、おかまいなしでガリガリガリガリ。
食べてる姿はそんなにキモくないんだけど。
動き出すとキモいんだよな。
あのぶくぶくした細長いボディーが尺取り動作をするのがキモ過ぎる。
……うん。非常に理不尽なことを言ってる自覚はあるけど。
生理的にダメな動きってあるのよ。
サボテン1個を喰い尽くし、ホワイトワームが動き出す。
ぐにゃん、ずでん。
ぐにゃん、ずでん。
ぞぞぞぞぞぞ。
ゾッとしながら、ホワイトワームのストーキングを開始する。
見てたら慣れるものなのかね……?
うん……
やっぱり気分のいい動きじゃないけど。
見つめ続けていたら、慣れては来たかな。
鳥羽も慣れて来たらしく。
バックパックを背中から下ろして、リラックスしつつ普通に観察している。
「ホワイトワームって、身体に水を貯め込みやすい構造になってるのよね」
余裕が出て来たらしく、今2人でストーキングしている宇宙生物の身体構造についてコメントをしてくる。
「ラクダのコブみたいなもん?」
「うーん、ラクダのコブは脂肪だからちょっと違うかな」
……そうなのか。
ラクダのコブは砂漠でラクダが水なしで行軍できる秘密だ、って話を聞いていたから。
てっきりあそこに水が入ってるんだと思っていたのに。
「ラクダのコブは携帯食料って言った方が一番近いかなぁ」
顎に手を当てて、慎重に考えた感じの答え。
生き物の話をしているときの鳥羽は本当に楽しそうなんだよな。
そんな感じで、俺も少し油断していた。
ホワイトワームに意識を向けてて、鳥羽の周囲の身の安全に気を配れていなかったんだ。
その瞬間、砂が爆発した。
鳥羽の背後の砂がだ。
そこから出現したのは、純白の角2本。
それは鳥羽の胴体をホールドし。
鳥羽を宙吊りにした。
鳥羽は後ろを身を捩って振り返る。
そこにいたのは……
体長4メートル級の純白の甲虫。
そしてその純白の甲殻には胴体に計6つの目の模様。
その可動する2本の角を生やした頭部には、人面の模様。
……ハクタク!
ハクタクに捕獲された鳥羽は真っ青になっていた。
次に何をされるのか、彼女は熟知しているから。
――消化液を体内に注入され、身体を内側からスープみたいに溶かされる。
資料をしっかり読み込んだのもあるんだろうけど、生物に対する博識さが、その資料の内容をより深く分からせるのか。
ハクタクの折りたたまれていた口吻が伸びてくる。
その先端は尖っていて。
それは真っ直ぐに、鳥羽の背中を狙っていた。
「ひっ……」
鳥羽の悲鳴が洩れる。
まずい……!
反射的に俺は左腕を突き出す。
ハクタクの口吻と、鳥羽の背中の間に滑り込ませた。
ハクタクの尖った口吻が、俺の腕に触れる。
だが闘気に守られた俺の左腕には、ハクタクの口吻は刺さらない。
鳥羽の身体に口吻が突き刺されることは防がれた。
……だけど……
この生き物だって、考えて動いているはずだ。
口吻が刺さらないものに阻まれたなら、やり直すはずだ。
つまり鳥羽の危機は去っていない。
だったら……
その前に、口吻を破壊しないと!
それだけを考えて、俺は奥義を出した。
阿比須龍拳奥義・
闘気を込めた右手の手刀。
本来は、意識を失った標的の手足を、出血も痛みも無く切り離すための拷問系奥義らしい。
標的が意識を失って目覚めたとき「達磨さんになってるー!!?」と絶望させるための奥義。
だけど
……俺は攻撃系の奥義を出すと、鉄身五身が途切れるんだ。
自分を守る、闘気の絶対のバリアが。
だから……
ハクタクの口吻が俺の左腕に突き刺さり。
俺の手刀がハクタクの口吻を切断するその前に。
俺の左腕に、ハクタクの消化液がほんの少しだけど、注ぎ込まれた。
……俺の左腕が消化され、溶け始めた。
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