第62話 阿比須族滅流……?

 俺たちの宇宙船アマノ33号の外に出た。


 出る前に、宇宙船AIに


『……気休めですが、ご武運を』


 そんな言葉を掛けられる。

 AIがそんな気休めというか、ただの励ましの言葉を喋るんだ……。


 俺は少しおかしくて笑った。


 ……相棒は俺の後ろに付いて来ていて

 俺のそんな様子を見て、不安そうな目を向けて来た。


 ちょっとマズかったかと思い、俺は


「悪い。今のアマノ33号の言葉、AIの発する言葉じゃ無いなと思ったんだよ」


 そう言って、安心させようと思ったんだ。

 させられたかは分からないが。


 外に出ると、タクマがいた。


 30代の男。


 道着と袴と……刀を持っていない。


「……刀を使わないのか?」


 俺は訊いた。

 こいつ、剣術家だろ?


 どこかに隠しているのかと思ったのに。


 この段階になっても帯刀していない。


 するとタクマは


「ああ、一般の刀剣はそれだけで銃刀法違反で目を付けられるからね」


 なんだかにこやかな感じでそう返してくる。


 ……は?


 今までの自分を全否定か?

 意味不明だ。


 お前、剣の道で積み重ねて来たんだよな?


 困惑する俺に、タクマは言ったよ。


「私は真剣に頼るのは止めたんだ。……もっと使い勝手のいいものがあるからね」


 使い勝手のいいもの……?


 分からなかった。


 棒立ちになる。


 見ている俺の前で……


 タクマは懐から金属製の短い棒を取り出し。


 引っ張った。


 すると……


 それは、伸縮式なのか、長い棒になったんだ。

 その形状は木刀に酷似していて……


「私の流派ならこれが最適。折り畳み式模造刀だ」


 折り畳み式模造刀……?


 そんなんじゃ、人を殺すのは無理だろ……?


 なので


「アンタ、立ち会いに来たんだろ?」


 そう問うと、タクマは


「……ああ」


 そうにこやかに答えながら


 ブン、と片手でその木刀のような金属製の長い棒を振るった。

 近くにあった大岩に向かって。


 そのときだった。


 ……俺の目の前で、大岩が両断された。


「は?」


 ……俺は自分が見たものが理解できなくて。

 そんな、バカ丸出しな声を洩らしてしまった。


 驚く俺に、勝ち誇ったような笑みを浮かべるタクマ。


「いやあ、感無量だよ。セルフクローン治療を受ける前に、技道場で金を払って、阿比須族滅流の技をいくつか購入しておいて正解だった」


 ……技道場?

 ……阿比須族滅流?


 聞いたこともない言葉の連続。


 混乱する俺に、タクマは教えて来た。


「宇宙真理国では、世界中の武術の技を電子情報として保管してるんだ」


 そしてそれを、有料で学ぶことが出来る。

 そのサービスを、宇宙真理国では「技道場」って呼んで商業運用しているらしい。


 ……何だって?

 それは……武術家にとっては嬉しいものである反面、許せないものでもあった。


 武術の秘伝は、先人の努力の結晶だ。

 軽々しく学べていいものじゃないはずだ。


 それを……!


 タクマは俺のそんな怒りに気づかない様子で。

 話を続けた。


「そして阿比須族滅流は、阿比須龍拳の源流である阿比須真拳のさらに源流。大源流だ」


 ……阿比須真拳の源流……?


 混乱する。

 そんな話、親父はしなかった……


 タクマはそんな俺の反応には興味がないらしく。

 その手に握った折り畳み式の模造刀を八相で構えた。


 そして、言ったんだ。


「……さぁ、構えるがいい。今の私は鉄身五身を使用できるし、この武器に闘気を流し込んで切断力を上昇させる阿比須族滅流奥義・繰手狩一撃クリテカルヒットを使用できるからな」


 ……そんな、信じがたい話を。

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