第61話 一般人の思考
「立ち合えだって?」
俺は外で俺に向かってそう望みを口にしてきた相手……タクマに向かってそう返した。
タクマはモニタの中で頷く
そして話し出した。
『キミの父上はとても強かった。私は手も足も出なかったよ』
……はぁ?
でも、アンタ勝っただろ?
それでいいじゃないか。
だから
「でも勝ったのはアンタだ。重要なのはそこだろ」
勝負は時の運って言葉がある。
人の強さは波があり、調子が悪いとき、動揺したとき。
強さは変わるんだ。
それを含めての勝負。
親父の強さがこのタクマという男の強さを下回ったときに、勝負になった。
それだけの話だ。
何も気にすることじゃない。
すると
『……キミの思考はやっぱり普通じゃ無いねぇ。それ、一般人の考え方じゃ無いよ』
タクマは酷く嬉しそうに、そんなことを言ったんだ。
そして続けた。
『普通は、父さんをよくも殺したな! って怒るんだよ。普通の人は』
……普通の人?
武芸者ってのはそういうものだろ。
親父は別に闇討ちに遭ったり、人質を取られて一方的にやられたわけじゃない。
アンタと正当に立ち会って、その結果負けて致命傷を負った。
悲しいけど、仕方ない。
双方納得済みの果し合いの結果なんだから。
……この考え方の何が悪いんだ?
本気で分からなかった。
そして……
なんだか、すごく怖かった。
相棒の目を見るのが。
……ひょっとしたら相棒は、俺を異物を見る目で見ているのではないか。
そんな予感がしたんだ。
だけど
「……彼は普通の男の人よ!」
相棒は言ってくれたんだ。
全く迷いのない声だった。
「妹想いで、基本的に女の子に優しい、武道の心得があるだけのただの男性よ!」
『女に分かる世界の話じゃないんだ。黙っていてくれないか』
モニタの中のタクマは、少しだけうんざりした顔で相棒の言葉を切って捨てる。
そして自分の話を再開した。
何故俺と立ち会いたいのか。
そこに掛ける思いを。
『……キミは私たちほどの情熱が無いようだねぇ。常識は理解できても』
そう前置きし。
話してきたんだ。
自分の望みについて。
『私はね、運よく勝てたのが不愉快なんだ! 我慢ならんのだ! あの素晴らしい武芸者が、私の破れかぶれの一太刀を何故かまともに浴びて敗北した。……そんなことはあってはならない。……キミには分からんかね? 運よく勝利を拾ってそれを賞賛される武芸者の惨めさを……?』
「そんなもん知るかよ! だから勝負は時の運って言うんだ! それでもアンタは勝ったんだから、アンタは親父よりその時は強かった。それでいいだろ!」
俺のそんな返答に
『良いわけあるか! 私は今度こそ勝たねばならない……正面から、阿比須龍拳に……そのために、私はキミに果し合いを申し込む』
何を言っても聞く耳持たない。
それがハッキリと分かる口調。
「……何なの? スッキリしないのは分かるけど……そのためなら自分から人殺しすることを辞さないっていうの?」
相棒はそんな言葉を洩らす。
俺はその言葉をどう思ったんだろうか。
……俺の答えは決まってる。
お前の自己満足に付き合う義理は無い。
この一言。
だけど……
自己満足なんだ。
……狂気だとまでは思えない。
それが俺の中で引っかかった。
相棒は多分、そうじゃない……
「断ったら、この
そんなことを思いながら確かめる。
モニタの中のタクマは
『不本意だが、そうさせて貰う』
にこやかにそう返してきた。
俺は……
「分かった。受けよう」
そう、応えた。
……相棒の目を気にしながら。
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