第94話 しまった!
無数の棘のついた2つの触手が振るわれる。
速い。
この2つの触手は闘気で覆われていて、その一撃は俺の鉄身五身を打ち破る。
いわば蛇腹剣だ。
フィクションでしか存在しない、変幻自在の斬撃を可能にする鞭のような
やってることのイメージが、それなんだよな。
リーチも長いし。
突き刺す軌道以外に、薙ぎ払う軌道もある。
射程距離は3メートルちょいくらいか。
正直、回避で追い込まれていた。
すると攻撃を繰り返しつつ、アイツは
「I feel like you can't afford to evade the attack」
何か英語で言ってくる。
ゆっくり発音じゃ無いので、聞き取れず理解はできない。
なので俺が気にしないで集中していると
「感ジル、オマエ、攻撃、逃亡、ムツカシイ」
日本語の単語で言い直してきた。
……どういう意味だ?
思わず俺は考えた。
単語のチョイスが納得できなかったからだ。
逃亡……確かエスケープ、だよな?
エスケープってアイツ言ったっけ?
いや、言ってる可能性あるか?
俺、逃げる素振りなんて見せてないけど?
じゃあ、何で単語にそんなもんが入ってるのか?
……しばらく思考して
「あっ」
……気づいた。
そうか。
アイツに日本語の語彙が無いせいだ。
自分の言いたいことを、アイツは日本語でどの単語を使えばいいのか分かんないのか。
だから知ってる単語で代用を考えた……
そこに思い当たったとき。
俺は妙な達成感を感じていて。
そのとき同時に。
……俺の左手首に、ムカデ触手が巻き付いた。
しまった!
つい、アイツの言葉の意味を考えてしまった!
遊びじゃ無いのに……!
巻き付いた触手は、ギリギリと俺の左手を締め上げる。
そして触手に生えそろっている棘が、まるで
くっ……
するとアイツ……怪人兵器は嗤いを含んだ声でこんなことを。
「ネングオサメドキ、デスカ?」
……日本語嫌いなわりに、妙な言葉は知ってるんだな。
思わず笑ってしまった。
でも、確かに楽勝の状況では無いわな。
……何故って……
阿比須龍拳奥義・
右手の手刀で、その触手を斬り落とす。
幸いなことに、通じた。
だけど……
鉄身五身が途切れた影響で、左手首がその瞬間、深く傷ついた。
クッ!
切断された触手の一部を投げ捨てる。
拘束は解けたが、だらだらと出血。
左手にかなり深刻なダメージを受けてしまった。
……こうなるからな。だから、楽勝では無いわけよ。
その様子にアイツは
「You、奥義、ストップ、鉄身五身、オーケー?」
お前の秘密を見抜いた。
そんな気持ちが籠った声でそんなことを。
……当然無視した。
まぁ、意味は無いんだが。
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