第45話 何にでも例外がある

 その後2人でラーメンを食べた。

 人生のうちで一番美味しいラーメンだった。


 麺もだけど、叉焼チャーシューが絶妙に美味かった。


 そしてその後、地方都市の貸し会議室で行われている新人向けのこじんまりとした講習会に参加し。

 地球外における犯罪者との向き合い方を再勉強させられた


「正義の味方気取りで、悪に立ち向かうのは大変危ないです。正義感は尊いですが、向こうは躊躇いなくこちらを殺す決断するかもしれないことを忘れないように」


「銀河指名手配犯は、DNA認証で分かるようになっています。それは皆さんの携帯端末で使用可能です。その認証機能の使い方は~」


 そんなことを講師を務めているこの町の警察署の偉い人が、プレゼンソフトを駆使して説明している。

 どれもこれも分かり切った話だったけど、だからといって真面目にやらないのは違うし。


 黙ってメモをとる。


 するとここで


「DNA認証って、いつ取ったんですか銀河指名手配犯のDNA」


 そう、手を挙げて発言する若い女性が居たんだけど。

 講師は


「皆さん出生時に遺伝病検査をしてますよね? その際のデータを流用して行っています」


 そう返答。すると


「そんな! それプライバシーの侵害じゃないですか!」


 焦る女性。

 俺は思った。

 ……ほらな。今回もまた出た。


 多分これ、毎回出るんだと思う。

 俺も3回くらい学習目的でこれとほぼ同じ内容のセミナーに出席したけど。

 毎回必ず、この「出生時に我々はDNAを政府に押さえられている」これに対して「そんなの変! 人権侵害!」ってリアクション。

 あるんよな。


 風物詩だ。


「何でも例外があるんです。そういうものだと思ってください」


 警察の人は、やれやれまたかといった風でそう一言返し。

 それっきり取り合わなかった。




 セミナーが終わって。

 帰りの電車に乗る前に一緒に喫茶店に入った。


 東北の地方都市だったけど、なかなか雰囲気の良い喫茶店で。

 キラキラした大聖堂を思わせるガラス装飾が魅力的。


 落ち着いた地味な、古臭い喫茶店……純喫茶って言うんだっけ?

 それも悪くは無いんだけど、こっちはこっちで別の味がある。

 俺はこっちの方が好きかなぁ。


 席に案内されて。

 そこで備え付け端末でブレンドコーヒーを2つ注文した。


「……疲れた」


 そこで正直な気持ちを口にする。

 3時間ずっと集中してたから。マジで。


「前に受講したときとあまり内容が変わってなかったよね」


 向かいの席に座っている相棒が、内容を思い返しているような顔でそう一言。


「4~5年で法改正が劇的に進むみたいなことは起きないってことだな」


 まあ、今回は俺たちの自覚を促すための受講だったから、内容の変化を期待する状況じゃ無いわけだけど。


 しかし……


「何にでも例外があるということ、文句言う人今回も出たな」


 あの後、警察の人がこれは例外だと何回言っても「人権蹂躙だ!」「やめるべきでしょう!」と言って騒ぐので。

 最終的につまみだされた。


 まぁ、そこまで行く人は多分まれだけど。

 これはどうも毎回似たのが出る。


 分かってない人多いんよね。

 例外の存在ってやつをさ。


 例えば「他人を拘束し、監禁し、本人の意思を無視して強制労働させる」のは犯罪で禁じられているけど。

 これに例外を認めないと、刑務所での懲役もできない話になる。

 刑務所に閉じ込めるのは間違いなく監禁だし、刑務作業は拒否できないんだから強制労働だ。

 そして逮捕は拘束だよな。


 だからまあ、例外はあっていいんだよ。

 その例外を認めた場合のメリットが、デメリットを遥かに上回るなら。


 DNAの出生時登録をしないと、犯罪者を銀河指名手配犯認定したときに、犯罪者に枷をつけることができなくなる。

 そのデメリットを思えば、DNAという個人情報に関する人権は無視して良い。

 実際、昔に気になって調べてみたら「出生時遺伝病検査義務化と銀河指名手配犯制度の制定」同時にされてるのよな。

 つまりそういうことだろ。


「冷静に見たら、そういう例外はいっぱいあるよね」


 相棒はそう言って後にこう続ける。


 犯罪の取り締まりもだけど。

 高速道路もそうだし。私たちの仕事だって。


 そんな相棒の言葉に、俺は心で頷いた。


 ……だな。

 勝手に宇宙生物を狩るのは違法なんよ。

 免許を持ってなければね。

 これだって例外だ。


 そんな話をしていたら、黒い制服を着たウエイトレスが注文品を運んできて。


「ご注文のブレンドコーヒーでございます」


 俺たちの前のテーブルに、2つ置いた。

 俺たちは


「ありがとう」


「ありがとうございます」


 礼を言って、一口。

 人間のウエイトレスが運んできたコーヒーを2人で啜った。

 配膳ロボを使ってないのがこの店のこだわりなんだろうね。

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