第23話 やっぱダメか

「暗いな」


「そりゃそうでしょ。夜なんだから」


 昼間潜ったときは陽光でそれなりに明るかったけど。

 今は夜。


 暗い海底は、ほぼ闇に閉ざされて、良く見えない。


 俺は普通に泳ぎだけど、相棒は水中バイクに乗って来てて。

 そのライトで海底を照らしてくれるが……

 正直、これでポセイドンを探すのは辛いかもしれない。


「ポセイドンは何を食べてるんだ?」


「海蠍と、あとは蟹かな」


 俺の問いに答えながら、相棒のライトが海底を舐めるように照らしていく。


「なるほど……」


 言いながら俺は、義手の機能の1つを起動した。


「レーダーハンド」


 文字通り、レーダーの機能だ。

 義手が受け取った情報は、ダイレクトに俺の脳へ電気信号として送られる。


 大体半径50メートル圏内の、海底の様子が俺の脳にイメージとして送られてくる。


 ……生身の腕が減るのは嫌だし阿比須龍拳としては不便ではあるけど。

 仕事としてはこっちの方が優秀かもしれない。


 と、そんな考えてはいけないことを考えてしまう俺。


 性能だけみて、生身の手足を捨ててしまうのは、宇宙真理国の人間以外ほぼやんないんだよな。

 イメージが悪いのもあるだろうけど……性能やコスパだけ追うのはやっぱ人としておかしいだろ。


 そんなことを独り言ちているうちに。


 俺のレーダーハンドは、巨大な生き物が海底を穿って、海底内部に埋まって隠れている蟹を捕獲しているのを嗅ぎ取った。


 よっしゃ!


 生身より役に立つ左手!


「見つけた。行こう」


 相棒に呼びかけ、泳ぎ出す。

 相棒は泳ぐ俺に合わせるスロウスピードで、現在食事中のポセイドンがいる場所に進み始めた。




 数分泳ぐと、いた。

 16メートル級のアノマロカリスのお化け。


 海底から蟹を掘り起こして、ハサミで捕獲。

 それを口の触手で掴んで、口でガリガリ齧って捕食。


 結構固い甲殻のはずなのに、ものともせずに丸かじり。


「あれで足りるのかなぁ?」


「いや、足りないと思うよ。蟹からしか摂れない栄養素があるのかもしれない」


 だよねぇ。

 キチン質?


 まあ、とりあえず捕まえよう。


 俺は泳いで接近し


 阿比須龍拳奥義・脳髄粉砕!


 俺は頭部を狙って奥義の突きを繰り出したけど……


 分厚い甲殻と、水の抵抗に阻まれ、技がまともに入らない。


(……やっぱダメか)


 まあ、予測はしてたけど。

 普通の突きの形になる奥義は通じんよな。


 平然とガリガリ蟹を喰っているポセイドン。


 俺は泳いで、正面に回り。


 そのまま右手をポセイドンの口腔内部に貫手の状態で突っ込んだ。


 肩まで突っ込む。

 本来なら右腕を失う構図。


 だけど俺は鉄身五身をやっているから


 ガチガチ噛まれているが、ダメージは無い。


 ……ここからどうするか。

 無論、攻撃系奥義は出せない。


 なので


 俺は右手で、ポセイドンの食道の中にあるものを掴み、引き千切る勢いで引っ張った。

 ズボォッ、と右腕を引き抜く。


 何も千切れなかったが……


 暴れた。ポセイドン。

 まぁ、食道を攻められたので当然だけど


 向こうはメッチャ怒った。


 ハサミと触手で攻撃してくる。

 俺はそれをいなしながら、海底に足を付け


 チャンスを待った。


 そしてハサミを左手でいなした瞬間。


 チャンス。一瞬の隙。


 ワンインチ。

 その距離に右拳を置き。


 技を、放った。


 頭部に向けて。


 寸勁を使いながらの……阿比須龍拳奥義・脳髄粉砕。


 わずか拳1個分の間合いから、拳を加速させる距離無しで相手に響かせる技……それが「寸勁」


 水で通常の拳の加速が計れないからこの手しか無い。

 俺の拳がポセイドンの頭部を下から襲う。

 その拳が食い込んだ瞬間。


 ポセイドンの動きが止まった。

 ビクッと一瞬大きく震えた次の瞬間に。

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