第40話 密入国者だ!

 誰だ……!?


 本当に、突然だったんだ。


 突如現れたそいつは


 いきなり俺の腹に拳を繰り出してきた。


 俺はそれをギリなんとか捌く。

 受けの動作から、俺は反射的に右の拳を相手の顔面に入れようとしたが


(まずい)


 この一撃でこのヘルメットを破壊すると、こいつは死ぬ。


 その躊躇いが、俺の拳を鈍らせた。


 それを相手は見逃さず。

 拳の軌道から身を捻り回避し、その動作に合わせて俺の脇腹に振り蹴りを繰り出してくる。


 俺は蹴りの方向に合わせて地を蹴り、ダメージを殺した。


 ……!


 それでもかなりの衝撃。


 誰なんだ一体……!


 ステップを踏むように地を蹴り、間合いを離す。

 相棒に寄り添う方向で。


 相棒を人質に取られる可能性を考えてだ。


「リューイチ!」


 相棒が俺の傍に避難してくる。


 俺は彼女を庇うように手を広げる。


 そのときだ。


 ……俺のヘルメットの表示に、通信許可要請のランプが灯ったんだ。


 この場に、これをやる人間は目の前のこいつしかいない。


 何故って、相棒とは常に回線開きっ放しだから。


 ……どうする?


 俺は迷ったが……


 決断した。


 すると


『……また会いましたでございますね』


 変な日本語。

 そして聞き覚えのある声。

 これは……


「アンタ、宇宙真理国の……!」


 確か……


『リチャード・エンマでございます』




「何でいきなり攻撃して来た……?」


 俺は思ったことを口にする。

 それしか言えなかった。


 この男に襲撃される心当たりなんて、欠片も無いから。


 するとリチャードは


『どのみちこうなりますので。ウルトラシンプルに行ったまでだぜ』


 ……シンプルだと……?


 困惑で俺が動けなくなっていると


「それ以前に、この惑星ホシは外国人が足を軽々しく踏み入れて良い状況じゃないはず! 絶対あなた密入国者じゃない!」


 相棒が厳しい口調で参戦してきた。

 指差して、少しも怯まず。


 だけどリチャードは


『ええ。密入国でございます。だが、こっそりだ。ジャパンの面子を潰すやり方では無いです』


「私たちに見つかってる、いや、堂々と姿を現しておいて、それ言う!?」


 相棒の糾弾。

 それはもっともだ。


 それに……


 一体何故そんなことを。

 アンタ、この前窃盗犯の襲撃を受けている俺たちを助けてくれたのに!


 この前、助けてもらったから猶更信じられないものがあった。


 この男のこんな行動が。


 だけど


『単刀直入に目的言うでございます。バルーンビートルを渡しなさい』


 ……全てを無視したリチャードの言葉。

 それで全て合点がいってしまった。


 なるほど。

 確かにそれなら、いきなり殴りかかるのがシンプルで合理的だわ。


 何故ならこの惑星ホシのバルーンビートルは日本の財産であり、俺たちの持ち物じゃない。

 だから「分けてくれ」なんて言われても、俺たちの決められることじゃない。


 そんなの「無理だ。外交ルートで頼め。アメリカや中国みたく」

 こう言うしかないわな。


 で。


 宇宙真理国は、日本と国交無いし。

 表向き、外交ルートは難しいと思うんだわ。

 ひょっとしたら裏ルートでやれるかもしれないけど、表向きは無理。


 だったら、強奪するしか無いわな。


 ……なるほど……。


 嫌な理由で、この男の行動について納得してしまう。


 なので俺は


「断る」


 そう言って、半身で構える。

 相手は阿比須真拳の使い手。


 相手も闘気を使う格闘士グラップラーだ。


 俺はこれまで人間相手で戦って、負けたことは無いんだ。

 けれど……


 この男に勝てるだろうか?


 俺はそんなことを、おそらく初めて考えた気がした。

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