第41話 阿比須と阿比須

 リチャードは踏み込み、左鉤突きを繰り出してくる。

 俺はその、俺の右脇を狙った鉤突きを、右手で捌く。


 阿比須の拳は一撃必殺。


 そして基本反撃を受けることを想定していない。

 何故なら、全て鉄身五身で防ぐからだ。


 阿比須との戦いは、父親との修行時代くらいしか経験していないんだ。


 父親から聞いている。

 阿比須の使い手との戦いは、鉄身五身が頼りにはならない、と。


 だからこのリチャードの拳は、俺に通じると思うんだ。


 なので、この戦いは普通の武術の戦いと同じものになる。


 鉤突きを捌かれたリチャードは


 今度は、右での頭狙いの鉤突きを繰り出して来た。


 ギョッとする俺。

 混乱はしないが


 ……ヘルメットを破壊されたら、俺は死ぬ


 この事実があるせいで、俺の回避行動が乱れた。


 少し動きが大きくなったんだ。


 そこを、突かれた。


 身を沈めるように、足払いの蹴りが来た。


 回避行動で重心が乱れていた俺は、それをまともに喰らってしまう。


 ぐるん、と俺の身体が回転する。


 だが俺は地面に手を突き、転倒を避け、逆立ち状態を経て常態へ復帰。


 しようとするときに、リチャードが突っ込んで来た。


『強いな』


 通信が入って来た。


「どーも……」


 阿比須真拳は阿比須龍拳の源流。


 言わば先輩だ。


 先輩の流派にそんなことを言われると、色々思うところはある。


「アンタ阿比須真拳なんだよな?」


『そうでございますが?』


 拳や蹴りの応酬をしながら、会話する俺たち。


「俺は阿比須龍拳。アンタの流派から生まれたある意味同門だ」


『ほほぅ。それはなんともなめぐり合わせでございますね』


 リチャード、ローキック、つまり右の下段蹴りを繰り出しつつ


「初代様は阿比須真拳の伝承者の親友だったらしい」


『そうですか。私はそのあたりは知らんでございますが、ある意味我々は兄弟でございますね』


 俺は足捌きと左腕でその下段蹴りを捌こうとする。


 そのとき


『……その左手、やっぱり義手ですね』


 冷静なリチャードの声。


 気づかれた!?


 俺は焦る。

 左手が義手であると気づかれたということは。


『つまり、あなたの左手は、闘気が乗らないということだ』


 その言葉と同時に、下段蹴りを繰り出した右足を軸足にスイッチし、左足で後ろ廻し蹴りを全力で叩き込んで来た。


 この蹴りには当然闘気が乗っている。

 鉄身五身をしたまま繰り出しているから。


 そして闘気の乗った攻撃は、闘気の乗った防御でしか受けられない。


 俺はその後ろ廻し蹴りを足捌きで躱すことができず。

 左腕を防御に回すしか無かった。


 通常の蹴りならば捌くことができるはず。

 しかしこれは通常の蹴りでは無いから


 俺の左手が砕けた。


(やられた)


 今、勝ち筋が消えた。

 それが突きつけられる。


 俺はバックステップで間合いを外した。


 外して、リチャードと向き合う。


 俺の左手は動かなくなっていた。

 一発で破壊されてしまったのだ。


『バルーンビートルを貰います』


 そこにリチャードの通信。

 俺はそれに何も返せなかった。


 ……勝負ありだ。

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