第19話 世界の闇

 宇宙真理教っていうのは、宇宙世紀が始まってから出来た宗教のことだ。


 人類の科学力は時代と共に進んで来て。

 治らなかった病気も治るようになったり。

 欠損した手足も元に戻るようになったり。

 無論、人類の活動範囲を狭い地球圏から銀河規模に拡大するに至ったのも科学技術のお陰。


 そんな中、この宗教と言うか、思想集団は生まれたんだ。


 切っ掛けは、人間のクローンの作成問題だった。


 失った家族を取り戻したい、と訴える遺族の「死んだ家族のクローン作成」を有料で秘密裏に請け負う。

 そんな科学者集団が居たそうだ。


 今もだけど、不調の出た臓器や欠損した手足という


「人体のパーツの部分的クローン作成」


 これは認められているけど、一人の人間の完成品クローンを作るのは違法なんだよな。

 それは人間の尊厳を破壊する、って。


 彼らはそんな法律を実質的に無視して、完成品クローン作成を行ったんだ。


 ……彼らが巧妙と言うか、異常だったのは。


 そのまんま、受精卵の遺伝子を弄ってクローン化する従来の方法を取らず


 頭部のクローン、胴体のクローン、腕のクローン、脚のクローン。


 ……パーツごとバラバラにクローンを作って、それを接合するという形で完成品クローンにしたことだった。


 発覚して、彼らは裁判に掛けられたけど、結果は無罪。


 法の方が、そんな人間をプラモデル扱いして完成品を作る、みたいな。

 倫理観が悪魔的に欠けている手段で、完成品クローンを得るパターンは想定してなかったんだ。

(それに、技術的にも数倍難しくなるそうな。専門家じゃないからどうしてなのかは分からんのだけど)


 普通の法律ならそういうことを想定するんだけど。

 この件に関してはそうじゃなかった。

 倫理的にも、技術的にもハードル高過ぎ。

 するヤツは居ない、と思っていたらしい。


 無罪を勝ち取ったその後、その科学者集団は自身を「宇宙真理教教団」と自称して、それぞれの祖国を捨て。

 

 銀河の果ての惑星を1つ購入して、そこを独立国「宇宙真理国」として国家樹立を銀河連合に宣言した。

 それが「宇宙真理教」の誕生の流れだ。


 一応、宗教の体裁はとってるんだけど、普通の宗教にあたる教義のようなものはない。

 強いてあげれば、科学にタブーは無い、だけど。

 こんなもの、教義とは呼べんよな。


 あと、既存の宗教を全く否定していない。

 自分たちの行動を阻まない範囲で、だけど。

 実際、信者の中には普通にキリスト教徒や仏教徒もいる。

 確か「人の生き方は既存宗教にお任せする」みたいなことを言ったらしい。


 だから他人に改宗を迫るようなことはしていない。

 新興宗教なのに。


 でも、元の古巣の地球国家としては、彼らの存在を認めるわけにはいかないんだよな。

 特に宗教関係は。


 現在、宇宙真理教はほぼ禁教扱いだね。

 国によっては宇宙真理教の信仰を違法にしている国もあるし。

 日本では信じるのは自由だけど、信者であることがバレると社会的地位を高確率で無くす状況だ。


 だけど……


 それでも多くの国が、宇宙真理国との実質的国交を持ってるんだわ。

 惑星を1つしか持ってない宇宙真理国のために、資源の提供をしている国すらある。


 理由はまあ、単純。


 倫理観ゼロの発想力で発展させた、科学技術の成果物が欲しいんだ。


 自分たちでやるのは嫌だし、やれないけど。

 成果物は欲しい。


 さっきのニュースで出てた「怪人兵器」っていうのもそのひとつ。

 複数種の生物の遺伝子を組み合わせて創り出したキメラ兵士を指す言葉。

 歩兵として問題なく運用することができ、その意味では最強だそうだ。

 作戦行動しか取らないし、暴走して略奪も凌辱もしない。

 それで戦闘力が、まさに一騎当千。

 理想的。


 ……でも。

 そんなものをどうやって作ってるのかは、多分運用してる人たちは考えないようにしてるんだろうな。


 ……正直、この問題は俺もまともに考えたくない面はある。

 俺らだって、その恩恵受けているかもしれないんだよ。


 ……で。

 長々と語ったが、そんな宇宙真理教の助力を得ることが中東的にどうなんだろうなぁ、ってことで。


 俺は問題あるんじゃないの、と思ったんだが


「……うーん……」


 茉莉は腕を組んで考えて


「私もあっちの宗教にそれほど詳しいわけじゃないから、一般常識の範囲で言うけど……」


 しかめ面で、指を1本立てて言ったんだ。


「一応、異教徒に助力を請うパターンを想定してたと思うのよ。あの人たち」


 だから別に問題無いんじゃないのかな。

 異教徒に大きいも小さいも無いだろうし。


 ……うーん、そんなもんなんだろうか?

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