第21話 海洋惑星にて

 俺は海に飛び込む。

 夜に備えて、だ。


 ポセイドンは夜行性なので、本番は夜。


 その前に海の底の地形を覚えないといけないしな。


 ヘルメットを被って海の底。

 空気は作業着の機能で供給される。


 このまんまで5時間くらい活動できる。


 惑星M-801は綺麗な海だ。

 信じられないほど透明で、青い。


 まあ、工場が無いからね。


 地球の海は酷いもんだけど。


 宇宙に腐るほど土地があるけど、安全保障上の理由で、どの国も地球外に工場は置きたがらない。

 万一宇宙への航行手段が死んだ場合に、工業が全滅する。

 これを恐れてのことだ。


 この惑星みたいな海洋養殖惑星。

 農業を全面的にやってる農業惑星。

 家畜を放牧している牧場惑星。


 色々あるけど。


 地球の方の農業も養殖も牧場も、無くならないんだね。

 理由は一緒。


 宇宙に急に行けなくなる=全滅


 これを避けるため。


 まあ、当たり前だよな。

 確率が相当低いから無視していい。

 これは確かにあるけどさ。


 ……サイコロ6つを同時に振って、全1ゾロが出たら死。

 それ以外なら1000万円。


 サイコロ振るのはとても簡単なことで。

 それだけで1000万円得られるなら皆やるけれど。

 例えごくわずかでも、それによって自分が死ぬ可能性があるなら


 どうしても1000万円欲しい理由が無いなら、やるヤツは居ない。

 普通はそう。通常レベルの知性があるなら。




 ……お?


 海の底を泳ぎながら視線を走らせると、動くものを見つける。


 蟹だ。

 見慣れた甲殻類。


 ただ、ちょっと足の数が少ないけどね。

 ハサミの他に4本しかない。


 ……食えるのか?


 まあ、大体蟲は食えるから、大丈夫だと思うけど。

 昼飯に、どうかなぁ?


 そう思ったので。


 俺は足を動かして、蟹に迫った。


 6本足の蟹は俺から逃げようと歩いていく。




 蟹を捕まえた。


 少し手間取ったけどな。


 ……目の前に、大きな網がある。

 ワイヤー製かな?


 この先が、鮑の養殖場。

 神道の神事に捧げものとして採用されてもおかしくないくらい、大きな鮑を養殖しているとか。


 ……1個あたり何円くらいするんだろうかね……?


 ま、俺には関係ないけど。

 別に鮑に目が無いってわけじゃないしな。


 同じ貝なら蛤の方が好きだ。




「蟹を捕まえた」


「おおおー」


 まるっきし南国の青空の下で。

 陸に上がると。

 陸に緑色のテントを設営し、緑色のアウトドアチェアを設置して。

 そこでチェアに腰掛けて本を読んでいる、赤い作業服姿の女が。


 鳥羽茉莉。


 彼女は言った。


「じゃあ、蟹鍋作っちゃおうか」


 そう言って、簡易コンロを道具袋から取り出した。

 それに対し、俺は。


「……船のAIに任せた方が良くない?」


 そう返すと、彼女は作業しながら


「たまには人間が動かないと、文化が衰退すると思うんだ」


 ……確かに。

 俺は彼女のその言葉に、頷かざるを得なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る