第32話 W顔合わせ

「ここの焼き肉屋が、唯一まともだ。あとはマックとケンタしか無い」


「どういう土地なの……?」


 相棒は俄かには信じられないようだ。

 俺の言うことが信じられないなら、ラーメン屋にでも連れて行ってやろうかと思ったけど、相棒を嫌な目に遭わせるためだけにそんな真似をすんのはなぁ。

 そんなに大きくも無いけど小さくも無い。

 チェーン店でも無い。


 暖簾のれんにある名前は、焼肉の牛太郎。


 相棒は見回している。


「妹さんは?」


 あ、そういや言って無かった。


「あと数分で来ると思うけど」


 腕時計を見ながら。

 約束では10時にこの焼き肉屋の前で、ってことになっていたし。


 しかし……


「焼き肉屋って言ってなかったっけ。ゴメン」


 相棒の格好を見て。

 白色のセーターと言うかコートと言うか。

 カーディガン?


 なんだか、焼き肉の臭いがついたらマズそうな恰好。


 焼き肉屋に行くって言って無かったかな?

 そう思ったら


「あ、大丈夫。預かってもらおうと思ってるし」


 ……そんな問題なのか?


 気にすんなという風に笑う相棒を見つめつつ、話をしていると。


「お兄ちゃん! お待たせ!」


 ……横断歩道の向こうから、高校生男女のカップルがこっちに向かって走って来ていた。




「はじめまして! 兄がお世話になってます!」


 妹が相棒に深々と頭を下げている。


「国生龍子です!」


「鳥羽茉莉です。お兄さんにはお世話になってます」


 相棒は相棒で、妹に頭を下げる。


 俺は俺で


「ああ、ゴメン。龍子の兄の隆一です。ええと……」


 妹の彼氏さんに頭を下げた。

 彼の名前、まだ訊いて無いんだよな。


「申し遅れました。萬田智樹まんだともきって言います。よろしくお願いします」


 ……大人しそうな小柄な少年で、龍子と背丈があまり変わらない子だった。


 彼は頭を下げつつ、右手を差し出して来た。


 お……?

 これはワンランク上の礼儀……


 俺は右を服で拭い、その手を握った。




「茉莉さんは受験勉強1日何時間くらいしたんですか?」


「大体7時間くらいかな。……まあ、長くやれば良いってもんじゃないと思うけど、大体の目安がそのくらいなのよ」


 4人でテーブルを囲んで、妹と相棒の会話を見守る。


「龍子ちゃんは何が得意なの?」


「英語と現代文です」


「志望してる学部は?」


「経済学部ですかね。経済学は人を統べる学問だって祖母が」


 ……えらい仲良くなってるな。

 まあ、仲良くないよりは良いかな。


 茉莉は仕事の相棒だし。


 で、一緒に相棒の話を聞いている萬田くんに、俺は話し掛けた、


「あのさ」


 ……彼も大学進学目指してるのかな。

 一緒に聞き入ってるように見える。


 俺が声を掛けると、サッと俺のことに気づいた。


「あ、お義兄さん」


 なんでしょうか?

 そう言って俺に向き直る


 彼には……


「どこで龍子と知り合ったの?」


 ここを訊いておきたかった。


 訊くと


「特進クラスで同じクラスになったんです」


 ……なるほど。


 どこが気に入ったのか聞いておきたいけど、外見を理由に挙げられたら兄妹としては少し複雑な気分になるし。

 かといって「外見は関係ありません」と言われるのはそれはそれでなんかムカつく……


 まあ、だから


「……無駄遣いはしない奴だし、多分男を軽くも考えて無いから、信じてやってくれると嬉しい」


 そう、彼に伝えると


「分かってます!」


 そうエラく強めに肯定された。




「龍子ちゃんは卑怯なことはしないし、真面目なんです。そこが良いんです。……あと、可愛いと思います」


 最初、ちょっと強めだったけど。

 続く言葉は弱めだった。


 俺だけに聞こえるように、顔を寄せて囁いて来た。

 恥ずかしそうに。


 まあ、兄としては、だ。


 ……うーん。

 ちゃんと妹のことを見てくれているのか。


 そう思う。


 兄としては嬉しいんだけど……。


 アイツの方はどうなんだろうなぁ?


 俺は相棒と談笑をしている妹の姿を見て、後で聞くかと頭の片隅で考えた。

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