エピローグ

第112話 勝負ありッ!

 地球に帰還して。

 宇宙海賊のジョージを警察に突き出し。


 会社に向けて報告書を書いた。


 ……相当巧妙にやってたんだな。

 どうも宇宙海賊の誘拐と人身売買……

 今まで世界中の司法組織に発覚していなかったらしい。

 そんなこと、あり得るのかと思っていたけど。


 俺たちも実際に襲われるまでに、そんな危険性を考えていなかったしな。

 まあ、彼らは言っていたし。


 先進国の人間を奴隷にして売ることに意味がある、って。


 その理由は、希少価値の高い先進国の人間を無理矢理奴隷として飼うことから得られる満足感が、値千金の価値なんだ、ってことなんだけど。

 逆に言えば、発覚すると先進国全てを敵に回す可能性があるわけで。


 だったら、全力で発覚しないように知恵を絞るだろうさ。


 それがたまたま、上手くいったわけだ。

 今までは。


 で、アイツらが持っていたコードレスの光線銃レイガンなんだけど。


 あの銃、製造元は宇宙真理国だそうだ。

 地球の科学技術では、まだあの銃を作るために要求されている技術課題が解決されてないらしい。


 ……この辺、宇宙海賊の組織がとても闇深く、根深いことが伺えると思う。


 あの光線銃レイガンは国が回収していった。


 このせいで、あとで俺たちの会社「アマノ宇宙狩猟」に、面倒なことが起きるんだけど。

 それはまた別の話。




『……信じられないことなんですけどね』


 そして。

 医者から俺の携帯端末に連絡が来たんだよ。


 妹の……龍子の主治医から。


 一連のゴタゴタが片付いて、しばらくしてからだ。


 俺は伝説の宇宙生物ユニコーンに遭遇した。


 ……だから頭の片隅で期待していたこと。

 そして主治医はこう言ったんだ。


『国生龍子さんのYH病が完治してます』


 ……俺はこのとき、本気で神様に感謝した。




「……本当に治ってるんですか?」


 そして。


 後日正式に説明をするという話になり。

 そのためだけに診察の予約を入れて。


 俺は有給を取って、その最後の診察に付き添った。


 丸椅子に座ってる妹の後ろで、俺は立って話を聞いていた。


 主治医は妹の血液検査結果や、妹の子宮の断面図映像を示しながら


「血液に現れる特徴的な数値が平常値に戻ってますし、子宮内壁に現れる影が消滅しています」


 主治医はちょっと興奮していた。

 あり得ないことが起きて、それを最前線で見たんだもんな。


 気分的にそうなるのは理解はできる。


 主治医は続けて


「なんでこうなったのか恥ずかしながら理解できません。でも、医者としては完治したという診断を下すしかない状況で」


 本当に興奮しながら捲し立てて。

 医学的なデータを取りたいから、完治はしたが通院は続けてくれないか? 幾分か謝礼を出すから、とまで言ってきたんだ。




「……どうだった?」


 病室の外で長椅子に座って待っていた茉莉が、龍子にそう訊ねる。

 診察室の付き添いは、1人のみって決まっててさ。


 仕方ないから、廊下の待合で待ってもらっていた。


 龍子は彼女に駆け寄って。


 抱き着く。


「お義姉さん! 私、治ってました!」


 弾んだ声でそう報告。

 茉莉は


「おめでとう!」


 そう言って抱き返し。

 胸に妹の頭を抱え込んで、撫でた。


 その手は左手で。


 薬指には、銀色の指輪が光ってる。


 ……婚約指輪だ。


 あのとき、地球に帰って来て。

 すぐに俺はプロポーズした。


 あんな極限状況を共に乗り越えて来た相棒なんだ。

 俺としても、もう結婚以外あり得ない気分だったし。


 彼女もそれを受け入れてくれた。


 指輪の選定は、普段使いを意識して、あまり宝石の目立たないデザインを選んだ。

 ただし、プラチナリング。


 プラチナは昔ほどは希少価値は無いけど、それでもまあ、未だに喜ばれる素材だ。

 傷つきにくくて、細工がしやすいかららしい。


「龍子ちゃん」


 しばらくそんな感じで仲良く義姉妹で抱き合って。

 ふいに茉莉は龍子に


「……記念写真、撮ってみようか?」


 そんな提案をした。

 龍子は


「うん! 撮りましょう!」


 大喜びで了承し。

 ふたり仲良く、顔を並べて。


 右手で携帯端末を構えて自撮り風で撮ろうとした。


 なので俺は


「ああ、それだったら俺が」


 自撮りは映像が決まりにくいし。

 カメラ位置の関係で、被写体が固まらないといけないから窮屈になるだろ。


 俺がカメラマンを申し出たんだけど。


「ああ、大丈夫。むしろこっちがメイン」


 ……なんか、丁重に辞退された。


 ……こっちがメイン?


 良く分からなかったけど、茉莉と龍子は並んで、茉莉主導で記念写真を撮っていた。

 左手を妹の肩に回した構図で。

 俺の見ている前で。


 そして写真の写り具合を2人で確かめて、共有し。

 よく撮れてる、って喜び合って。


 茉莉は


「この写真を彼氏君や、友達にも送ってあげたら?」


「はい! 彼氏にはすでに送りました!」


 ハイテンションな妹。

 まぁ、これで彼氏に重責を背負わさなくて良くなったんだしな。

 高校生なのに結婚を意識してる彼女を抱えてる、っていう。

 そりゃ嬉しいだろうさ。


 そう思って、眺めていた。


 眺めていたら。


 茉莉が


「……アメリカ人のお友達には?」


 そう笑顔で訊いた。

 その問いに妹が


「それはこれから送ります!」


 そう元気よく答えたんだ。


 ……その一言を聞いたとき。

 茉莉はとてもとてもいい笑顔で微笑んだんだ。


 そこでまぁ、俺は色々と彼女の意図が理解できて。

 思ったよ。


 ……ああ。


 女は……怖いな。


 って。

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