宇宙ハンター

XX

1章:宇宙の狩猟業者

第1話 宇宙ハンター

 人類が太陽系の外に本格的に活動の場を移して、だいぶ時間が経った。

 およそ数百年か?


 俺は学生時代、歴史の点数はそんなに高く無かったから詳しくは知らんのだが。

 大昔の人々は、俺たちのやってる仕事をどう思うんだろうね。


「リューイチ、そろそろ着陸の準備をして。立ってると危ないよ。いくらアンタが武芸者でもね」


 橙のTシャツに、黒のズボンというラフな格好の仕事の相棒が、俺に着席を促してくる。

 色々言いたいことはあるんだけど、従う俺。


 無視する理由は無いしな。

 それに無視すると、なんか彼女に反発しているみたいで恰好悪い。

 男の癖に女に嫉妬するのか、みたいな感じでさ。


「分かった」


 そう言って、俺も座席に向かう。


 彼女の名前は鳥羽茉莉とばしまつり

 俺と同じ日本人の女性だ。

 年齢も俺と同じ22才。


 見た目はかなり上位だとは思う。

 実際、社内でも彼女を狙ってる男はそれなりに居た気がするし。


 ウェーブがあって、ボリュームのある長い黒髪と、太めの眉が特徴的で。

 貧相には感じないスレンダー体型。


 彼女は俺の仕事の相棒で、俺より学のある女性だ。

 なんと大学を卒業している。

 しかも飛び級で。


 普通に考えると、俺たちの会社みたいなバリバリ現場主義の職業には就かずに、穏やかにデスクワークでもしてそうなイメージあるんだけど。

 大学卒業者。しかも飛び級って言われると。


 そんな状況で、彼女は何故かウチの会社を選び、しかも現場を希望した。

 理由は「野生の宇宙生物をこの目で見たいから」らしい。


 ……俺たちの会社「アマノ宇宙狩猟」は、宇宙生物の捕獲、狩猟を生業にしている会社だ。

 設立して200年経過している、それなりに歴史が長い会社。

 

 俺と彼女の仕事は、そんな会社の商売の現場だな。

 つまり……宇宙生物とガチガチやり合って……捕獲したり、倒して狩猟してしまったり。

 そういうことをやる仕事。

 一般的には「宇宙ハンター」って呼ばれている。 


 まあ、長々と話したけど。

 取り合えず、俺は言われた通りに座席に座ってシートベルトを掛けた。

 車や飛行機と大差ない形状の座席だ。


 すると


『これより本艦アマノ33号は、無人惑星E-101に着陸します。ご注意ください』


 宇宙船のAIが、船員である俺たち2人に注意を促してくる。

 さて、これからは戦場だ。

 気を引き締めないと。




 無事着陸し、宇宙船内の個室で仕事着に着替え、俺は自分の姿を確認した。

 社内ではこれは作業着と呼ばれてて、会社の全体朝礼に参加する際にも着用を強制されるんだけど。

 正直、あまり好きでは無い。


 嫌なんだよなぁ……仰々しくて。


 作業着……素材はよくは知らないんだけど、ラバースーツに似てる服。

 身体にしっかりフィットし、しかも破れない強靭な素材できてる。

 で、胸部や肩、腰回りに動くのに支障ないレベルの装甲がついているデザイン。


 ……で、何故か腹部には装甲が無い。


 おかげで、腹が出てきたら一発でバレる仕様の作業着。


 幸い、俺は普段から鍛えているので、それで恥を掻くことはないんだが。

 俺は一応、念のために姿見に自分の姿を映して、最後の確認をした。

 仕事前点検だ。


 作業着の不備は、思わぬ事故に繋がるかもしれない。

 ぬかりなく。


 黒色の生地に破れは見つからない。

 問題はないように思える。


 ……流れで自分の顏も見るわけだけど。

 今日の体調は問題無さそうな感じだ。


 実は昨日、仕事でワクワクし過ぎてよく眠れなかったんだ。

 ガキかよ。


 ……俺は多分、ブサイクでは無いと思うんだよな。

 そういう悪口を言われたことは無いし。


 まぁ、俺を怒らせると怖いと思われてただけかもしれんけど。


 自己評価では凛々しいのではないかと思ってはいるんだが。

 俺個人としては、古典作品のヒーローの……ええと、最期に浜辺で馬怪人に首を折られた男。

 名前を忘れてしまったが。


 あれに似てる気がする。

 そう思ってるのは俺だけだったら恥ずかしいので、誰にも言ってはいないんだけど。


 髪は伸ばしてない。

 掴まれると困るからな。


 ……よし。

 さて、行くか。




「やっぱ酸素呼吸の可能な星は良いわね。ヘルメット被らなくていいし」


 宇宙船外に出たので。

 んー、と相棒は伸びをした。

 彼女……鳥羽も作業着を着ている。


 彼女の場合は、赤い作業着だ。


 ……男の場合と違って、目の保養になるからこっちはそんなに嫌いでは無い。


 さて……仕事。


 宇宙船を着陸させた場所は少し開けた場所。

 地球に似てるけど、微妙に違う。

 地球じゃ無いからね。


 異星の、見慣れない植物で彩られた星の風景。

 その中を進んでいく……


 と、その前に。


 腰のモノ入れから、俺は煙草を1本取り出した。

 口に咥えて、火をつける。


 ……今のうちだけだもんなぁ。

 吸えるのは。


 そしてフーッと煙を吐き出す。


 ……落ち着く。


 すると


「馬鹿ッ!」


 彼女の焦り声が飛んできた。


 それに対して「え?」と思ったが。

 思い出したときはすでに遅かった。


 俺の顔面に、ものすごいスピードで飛んできたものが衝突したのだ。


 ……そういえば、忘れていた。

 この無人惑星E-101って、迷惑な習性を持った甲虫が住んでるんだよ。


 その名も、バレットビートル。


 流線型のデザインの甲虫で、音速スレスレの速度で飛行する。

 で、こいつはニコチンの臭いを嗅ぎ付けると、全速力で突っ込んでくるんだ。


 理由は確か、奴らの餌になる植物が食べごろのサインでニコチンを分泌するから、だったはずだ。

 まあ、そんなことはどうでもいいことだが。


 重要なのは……


 ここの惑星ホシで煙草を吸うと、常人は死亡する。

 これだ。

 バレットビートルの突撃で、頭部を破壊されて。


 だけど俺は……


「……スマン」


 無事だった。

 逆に、バレットビートルの方が粉々になり、死んでいた。


 俺は奇跡的に甲虫の突撃で破壊されなかった煙草を、同じく持っていた携帯灰皿で消して。

 相棒である彼女に謝罪した。……煙草やめようかなと思いつつ。


 ……俺は別なんだよな。


 俺は先祖からずっと継承している伝説的拳法の継承者なので、無事なんだよ。

 阿比須龍拳あびすりゅうけんって言うんだけど。


 今のは奥義の「鉄身五身」

 全身に闘気のバリアを張り巡らせ、身体へのダメージをカットする技なんだけど。


 ……俺がこの会社にかなり余裕で入社できたのも、この技能があるお陰なんだよな。

 ありがたい話だよ。


 今更だけど、名乗っておく。


 俺の名前は国生隆一こくしょうりゅういち

 宇宙で宇宙生物相手に、身一つで立ち向かうことを生業にしている男だ。

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