第2話 阿比須龍拳

「スマンじゃないよ! アンタ大事なこと忘れてる! 前に言ったじゃん!」


 鳥羽が慌てている。

 そして慌ててバックパックを背負いだした。


 えっと……


 何かあったっけ?


 ……久々にこの惑星ホシに来るから色々分からない。

 えっと……


「バレットビートルだけだったら、どうせアンタは死なないから放置なのよ! そうしなかったのは、それだけじゃ済まないからでしょ!」


 糾弾。


 そこでようやく俺はハッと思い出した。

 そーだ……


 ブーン、という音がした。

 それと同時に


 体長2メートルに達する、大型昆虫が飛来して来たんだ。




「来たッ……バレットイーター……!」


 鳥羽の顔が引き攣る。


 バレットイーター……この惑星ホシに住む大型昆虫のうち1体。

 全体的なフォルムで一番似てるのは蜻蛉とんぼ


 ただ、蜻蛉より胴体が太く、半透明の羽根の数は6枚ある。


 ……こいつらはバレットビートルを常食している蟲で。

 怪我をしたバレットビートルを嗅ぎ付けると、喰いに飛んでくるんだよな。


 ……そーだった。

 こいつが来るんだよな。


 だから厄介なんだよ。


 こいつも相当素早いんだ。

 バレットビートルほどでは無いんだけど。


 ……それに……


 肉食である。


 鳥羽が無言で両手で持ったレイガンを、バレットイーターに向けた。


 レイガン……直線的なデザインの拳銃。

 ただし、発射されるのは実弾では無く、ビーム。


 引き金を引けばビームが発射される。

 引き金を引いている間は、ずっとだ。

 コードで接続しているバッテリーの電力が切れるまでね。


 ……そのバッテリーは、彼女が今背負っているバックパックに入ってるんだが、嵩張るのよな。


 実弾を発射する銃と違って、反動は一切ないし、引き金を引いてる間はずっとビームが出るから、狙いも付けやすい。


 けど……連続照射が過ぎると、故障の原因になるのと。

 バッテリーがあのサイズ……バックパックを用意しないと厳しい大きさ……を用意しても、発射できる時間はせいぜい10分くらいしか無いんよな。


 そして最後。

 射程が7メートルくらいしかない。

 それ以上の距離になると、エネルギーが減衰し、殺傷力が無くなる。


 まあそんな感じで、大いにメリットがあるが、デメリットも同じくらいある武器なのよな。


 ギイイイ!


 ……俺はバレットビートルの体液を浴びている。

 特攻を受けたからね。


 なので、より美味しそうなのは俺なんだな。


 だからそう軋るような声で一声鳴いて、バレットイーターは俺に突っ込もうとしたのだけど

 一瞬早くその6枚の羽根のうちの1枚を、一筋の光が貫いた。


 鳥羽のレイガンだ。

 ……ありがとう。


 素早いから始末に困るところだったけど、これでだいぶ楽になるわ。


 突如自慢の羽根の1枚を傷物にされたせいで、飛行が不安定になっているバレットイーター。

 俺は地を蹴り拳を振り上げ。


 拳に闘気を集中させ、バレットイーターの頭部をブン殴った。


 阿比須龍拳奥義・脳髄粉砕!


 ……阿比須龍拳が起きたのは令和の時代。

 初代様は、親友から基となる技を伝授され、改良。


 元々活人拳だった阿比須真拳を、新たに暗殺拳である阿比須龍拳として昇華させたらしい。


 ……普通逆だろ。

 何をやってるんだ初代様は。


 ガキの時分は、口伝を聞かされて内心ツッコんでいたが。

 今の俺の手助けになってる技ではあるわけで。

 技に罪は無いよな。


 阿比須龍拳は徒手にて、外傷が分からない形で一撃で撲殺することを極意とする。

 まさに暗殺に向いた拳法。


 俺に頭部を殴られたバレットイーターは、電池が切れたように動きを停止し。

 そのまま蚊取り線香にやられた蚊のように地面に落下する。


 ……頭部は陥没してないし、ついたまんまだ。

 しかし、こいつの頭の中の脳はグチャグチャに破壊されている。


 人間相手にやったら、おそらく解剖しないと死因が分からない状態になる。

 心臓麻痺で死んだように見えてしまうだろう。


 そういう技だ。


 着地した俺は、レイガンで援護してくれた相棒に


「鳥羽、ありがとう」


 礼を言うと。


 鳥羽はにっこり微笑んで


 ……停泊中の俺たちの宇宙船を指差した。


 そしてこう言ったのだ。


「お礼は良いから、とっととバレットビートルの体液を洗って来てちょうだい」


 ……分かった。

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