第7話 答え合わせ
てるてる坊主が、くすりと笑って答えた。
【"いいえ"。ふふ、これで質問はおしまい。2分の1になっちゃったね。それじゃ、運があるとい――】
「いいえ! もう確信はつきました!」
カイトが強く言い放った。
「うしろの正面は、出席番号10番、
堂々とした回答。
しばしの沈黙。
カイトはごくりと唾を飲み込んだ。
【せいかーい! おめでとう、一発クリアだよ。さっすがカイト君】
パンパカパーンという成功音とともに、目隠しが外される。
目の前には、最初に考えた答えである、眼帯のチヒロが立っていた。
無口な彼女だが、その表情はひどくほっとしていて、半泣きになっていた。
後ろを向くと、力の抜けた顔のツヨシが立っていた。
常に悪人面をしている彼とはかけ離れた表情で、もの珍しさにカイトはついジロジロと見つめてしまった。
「なに見てんだよてめー!」
「いえ。面白い顔だなと」
「んだと!」
「カイト君!」
他のクラスメイト達が、カイトの傍に駆け寄る。
「ありがとう……。ウチら、死んだかと思った」
ユウナが涙目になりながら言った。
「ふえぇ……っ、怖かったよぉ……」
その隣で、カナが泣きだした。
よしよしと、ユウナは彼女の肩を叩いた。
「ふんっ、ギリギリごーかく、ってところですわね」
ぷいと顔を背けるエリカの肩は、ひどく震えていた。
「エリカちゃん、素直にありがとうって言いなよ。何でそんなこと言うの」
ユウナがムッとした表情で咎める。
「だって! せっかくシュウヘイ君が名案を出してくださったのに! まわりくどいことするからですの!」
「ちょっと――」
「大丈夫です」
ケンカが始まりそうな2人を、カイトが止めた。
「エリカさんは、いわゆる"ツンデレ"というものでしょう。本心は伝わっていますので、問題ないです」
「はぁ!? 誰がツンデレですって!?」
「……? あなたですけど」
「そんなことは分かってますわよ!!」
絶妙にズレているカイトに、エリカはイーッと歯を剥き出しにした。
してやられているエリカに、ユウナはぷっと吹き出した。
「カイト君!」
ショウタが呼ぶ。
「ごめんよ。カンペキな作戦だと思ったんだけど、失敗しちゃって」
「へ? 失敗してたのか?」
作戦を代弁したシュウヘイが聞き返した。
「ああ、失敗してたな。どっかのうしろの正面がひっでぇオンチだったせいで。目隠し状態でお前だって判別すんのは無理ゲーだろ」
タクトが、失敗の元凶(ツヨシ)を一瞥して言った。
悪ガキのツヨシも、自分のせいで失敗しかねなかったことには何も言い返せず、申し訳なさそうに唇を噛みしめた。
「おい、もういいじゃねぇかよ! これ以上ツヨシのこと責めんなよ!」
絆創膏をつけている方の悪ガキ――タカシが、タクトにガンを飛ばした。
「そうそう。タカシの言う通り。俺ら全員生き残った、それでいいじゃん。グチグチ言うのはやめようぜ」
シュウヘイが、タクトの肩にぽんと手を置いて言った。
タクトは、ばつが悪そうにそっぽを向いた。
「それにしても、何でツヨシだって分かったんだ? 2分の1だったろ。すんごい自信ありそうだったけど」
シュウヘイが、カイトに問いかけた。
「ショウタ君の作戦のおかげですよ。歌声というのがカギでした」
カイトが答えた。
「僕は、このクラスの中で歌声を聞いたことのない人物が3人います。1人めはチヒロさん。最初は彼女がうしろの正面だと思ったんですが、1つめの質問でそれは否定されたので除外しました。あとの2人ですが、それがタカシ君とツヨシ君でした。タクト君は聞いたことがあるので、自然と除外することができます」
ユウナがぽんと手を叩いた。
「そっか! タクト君すっごい歌うまいもんね! だから、あのカッスカスの声ってだけで2択になるのか」
「おい、誰の声がカッスカスだ!」
ユウナの悪態に、ツヨシが怒りのツッコミを入れた。
「ショウタ君の作戦がなければ、タクト君を除外することができませんでした。きっと、2分の1を外して、罪悪感につぶされていたことでしょう」
そう言うと、カイトはショウタの手を握った。
「クリアできたのは――みんなが生き残れたのは、あなたのおかげです。ありがとうございます」
「――――っ」
屈託のない笑みで言われた礼の言葉。
ショウタの心に、ぶわりと温かいものが広がった。
【はいはーい! 全部のグループが終わったから、次のゲームにうつるよ~!】
喜びを断ち切るように、てるてる坊主のアナウンスが鳴る。
その直後、幕が開くようにして、闇が引いていった。
徐々に、もといた体育館の景色が露わになっていく。
不思議と、床に垂れた汚物とその悪臭は消え去っていた。
――取り払われた闇の向こうにあったのは、地獄だった。
「ウフ……ウフフフフ……」
「おまえのせいで! おまえのせいで!!」
「うわあああああああああああああああああああん!!」
「あああああああああああああああああああああああああああはははははは!」
うしろの正面を当てることができず、1人で蹲る者たち。
犠牲者を出してしまったオニを、集団リンチする者たち。
罪悪感に耐え切れず発狂する者たち。
この中で正気を保っている人間は、どれだけいるのだろうか。
生き残った10人は、絶句して立ち尽くした。
【あ~あ。これじゃあゲームは続行できないね~。キ〇ガイは吊り~!】
正気を失った者たちが、次々と吊り上げられていった。
【も~。なんで分かんないかなぁ。ぼく、抜け道つくってたんだよ? "うしろの正面だ~れ”の時に、その時に真後ろにいた人だけが歌えばさ、確実に答えられるじゃん。気づかないグループ多すぎ!】
てるてる坊主の言葉に、死人を出してしまったグループの者たちが絶望に打ちひしがれた。
【みんな、喜んでたり悲しんでたりしてるところだと思うけど~。そろそろ、次のゲームに移ろうと思います!】
ウィーン。
機械音が鳴り、ステージ上にクイズの台が3つ現れた。
【二曲目は「さっちゃん」です!ゲームを開始する前に、10分間の休憩を挟みます。その間に、気持ちを整えて置いてね♪】
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