53話 拷問ゲーム⑤

「ア――」


 アオイは絶望した。

 故意ではないとはいえ、裏切ってしまったから。

 仲良くしようと誓いを立てた、直後に――。


(どうしよう。どうしようどうしようどうしよう)


 一方、ミナミもまた絶望していた。

 これから、最低でも体の一部を欠損しなければならないことに。

 地獄のような拷問から、決して逃れられないことに。


(わかってる。アオイちゃんだって、わざとじゃない。急かされて、とっさに言った番号が私だっただけ。でも、でも……っ)


 恨みはない。

 だが、あまりに突然にされた宣告に、恐怖せずにはいられなかった。


 Bチームの1番、ひよりはもはや絶望を通り越して無だった。表情からは完全に生気を失い、まるで意思のない人形のようだった。


「ひより――」


 シュンヤが呼びかけるが、ひよりは答えない。吸い込まれるように、ひよりはふらふらと「勝負」の場所へ歩いていった。


 誰が何を思おうと、ゲームが止められることはない。

 あっけなく、その時はやってきた。


 ミナミはカードを持ちながら、ちらりとひよりを見やる。

 ひよりは深くうつむき、その表情は確認できない。


「……いい?」


 控えめに、ミナミはタイミングを問いかけた。だが、ひよりは何も答えない。立ち尽くしたまま、微動だにしない。


「ね、ねぇ。カード、出すわよ。大丈夫?」

「…………」


 やはり何も答えない。

 このままでは、高橋どころか、てるてる坊主の機嫌まで損ねてしまう。


 そして、問答無用で死――――。


 脳裏に、多くの人々の死に様が、走馬灯のように駆け巡った。


「はないちもん――――」


 焦ったミナミは、ひよりを待たずに合言葉を言い、カードを出そうとした。――その時だった。


 ひよりは、力なくカードを床に落とすと、そのまま崩れ落ちた。


「え……!?」


 彼女の行動に、ミナミだけでなくプレイヤーのほぼ全員が驚愕した。


「何してんだ、ひより!」


 列から離れ、ひよりのもとへ駆け寄ろうとするシュンヤ。

 だが、不可視の何かに身体を拘束され、それ以上身動きが取れなくなった。


【ダメだよ。指名されてない子が列を離れちゃあ】


「ぐっ……、くそッ、離しやがれ!!」


 シュンヤは拘束を解こうともがくが、縛り付けるナニカはびくともしない。


「何で、どうして!? 早くカード拾いなよ! 死んじゃうよ!?」


 ミナミが呼びかけるが、ひよりは力なく首を横に振った。


「むり……。わたしには、むりだよぉ……」


 か細い声で、ひよりは嘆く。


「わたしが出した、たった1枚が……、相手を殺したり、傷つけたりするなんて……。耐えられないよぉ……」


【ふぅん、優しいんだね。よくここまで生き残ったね、キミ】


「ひより! 早くカードを拾え! なんでもいいから出せぇえええ!!」

「ごめんねぇ、シュンヤ。わたし――」


 命を削るように叫ぶシュンヤ。

 はかない笑みを浮かべるひより。

 彼女の唇が、「う」の形を作った。


【でも残念。ゲームをする意思がないなら、死ぬしかないね】


 無慈悲な宣告。

 ひよりの四肢は、無慈悲にも切り落とされた。

 床に落ちる四肢とは別に、首と胴体だけはそのままの状態で、宙に浮いていた。


 そしてそのまま、布を被され吊り上げられていった。


「あ"ああああああああああああああああああ!!」


 シュンヤは叫び声をあげると、一直線にミナミのもとへ走って行った。

 拘束は解かれていたようだった。


「ミナミィイイイイイ!! お前のせいでぇえええええ!!」

「え……?」


 シュンヤは鬼の形相で拳を振り上げた。

 返り血をふんだんに浴びたミナミは、何が起こったのか処理し切れずに、呆然と立ち尽くすことしかできない。

 高橋が、止めに入ろうと動いた。


【は~い、プレイヤー同士の暴力行為は禁止で~す】


 シュンヤの拳が掴まれるよりも早く、猫又が彼の腕を切り落とした。


「あ"っ……!?」


【お互い想いを伝えられなくて残念だね。こういうのは、先延ばしにしないで、さっさと伝えるべきだよ。いつ、何が起きるか分からないんだからね】


 絶叫するシュンヤに、淡々と説教するてるてる坊主。


【今から告白しておいで。……地獄でね】


 シュンヤもまた、吊り上げられていった――――。



 犠牲者……児童2名。

 残り、32名……。



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