死のわらべ歌

ブモー

序曲・惨劇の始まり

第1話 はじまり

 ピーンポーンパーンポーン……。


 本日の、1時15分から、全校集会が始まります。

 みなさん、体育館に集まってください。

 繰り返します……。


「はぁ~、だっりぃ! 昼休みつぶれんじゃねーかよ!」

「サッカーしたかったのに!」


 教室内にブーイングの嵐が起こる。

 貴重な昼休みを台無しにされた児童の不満は大きい。


「つべこべ言わない! はい、整列!」


 鶴の一声。

 大人の決定事項を前に、子どもたちは無力だ。

 不満そうにしながらも、皆てきぱきと扉の前に列をなす。


 ――ここは好天こうてん小学校。

 児童数720名、教職員40名。

 県内随一のマンモス校であり、市の子どもたちの大半がこの学校に集う。


 それほど膨大な数の児童を抱えていれば、当然変わり者も紛れ込んでいるわけで。


「今日はどんな話が聞けるのか楽しみですね」


 5年3組の列の中。

 皆が嫌がる全校集会を、1人だけ楽しみに思う児童がいた。

 彼の名はカイト。フルネームは、雨宮海人あめみやかいと。学内きっての変人だ。


「はぁ? アンタ何言ってんの?」


 ローツインテールの女子児童が、キツイ口調で言った。

 彼女の名は、ミナミ。フルネームを、日高美南ひだかみなみという。カイトの幼馴染である。


「校長先生の話が楽しみだって言ったんです」

「そんなことは分かってるわよ。その思考が理解できないって言ってんの」

「人の気持ちなんて、誰にも分からないものですよ」

「はぁ……。もう、いいわ」


 ミナミは呆れ果て、話すのを止めた。

 ほどなくして、彼らは体育館へと到着するのだった。




『これから、全校集会を始めます。始めのあいさつ……』


 アナウンスが鳴り、集会が始まる。

 控えめに談笑する声が止み、皆が死んだ目でステージを見上げた。

 教頭による手短な挨拶が終わると、校長の話へとプログラムが進んだ。

 これから始まるであろう長話に、その場にいる9.9割が憂鬱な気分となった。


「お、始まりますね」


 ……約1名を除いては。

 スッとメモ帳を取り出す隣の幼馴染みから、ミナミは全力で目を背けた。


「えー、おほん。皆さん、こんにちは。今日はいい天気ですねぇ。外に出ると、いい気持ちでしょうねぇ」


 くたばれ、と。

 外で遊びたかった児童は、心中で毒づいた。

 ――あくまで、心の中で、のはずだった。


「ぐあ”あっ!?」


 突如、首吊り縄が一直線に降りてきた。

 輪っかが校長の首を捉え、猛烈な勢いで引っ張り上げる。


「グ、ガガガガガ、ア”、ア……ッ」


 うめき声をあげ、太い足をバタバタとさせる校長。

 あまりにも突然のことに、その場にいた全員がフリーズした。


「グ、ギヒッ、ヒィィッ、ウウウウウウウ」


 苦悶の声が体育館に響き渡る。

 誰もが恐怖する中、カイトは1人立ち上がった。


「ちょっと、どうしたのよ!?」

「校長を助けます。脚立を探さなければ」

「何言ってんのよ! 届くわけないじゃん!」


 校長の体はあまりに高く吊り上げられ、体育館側からは足しか見えていない状態だ。

 高身長の教員でも、到底届かない。

 カイトは悔しげにぐっと拳を握りしめた。


「ア”……、アア――――」


 その時は、すぐに訪れた。

 校長の足が、動かなくなる。

 だらんと力なく垂れた両足が、ゆらゆらと揺れた。


 ぴちょん……、ぴちょんと、濡れた音が鳴る。

 不浄な雫が、ステージの床を湿らせていった。


【てるてる坊主~てる坊主~。あ~した天気にしておくれ~】


 ぴちょん、ぴちょん。

 雫の落ちる音とともに、不気味な歌声が鳴った。



 いつかの夢の空のよに

 晴れたら金の鈴あげよ



「なぁ、これどこから鳴ってんだ……?」

「こわい……っこわいよぉ……」

「落ち着きなさい。大丈夫よ」


 困惑する男子児童。

 泣き出す女子児童。

 教師は己の不安を押し殺し、子どもたちを宥めた。


 

 てるてる坊主 てる坊主

 あした天気に しておくれ

 私の願いを 聞いたなら

 あまいお酒を たんと飲ましょ



 歌はまだ止まない。

 恐怖のあまり、ミナミは思わずカイトにしがみついた。



 てるてる坊主 てる坊主

 あした天気に しておくれ

 それでも曇って 泣いたなら



【そなたの首を チョンと切るぞ】


 ……ゴトン。

 ステージに落下する、校長の頭。

 一文字幕から覗く足は、まだゆらゆらと揺れている。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 体育館を覆う悲鳴。

 教師も児童も、我先にと出口へ殺到した。


「ぎゃっ!? おい、押すなよ!」

「ねぇ、通して! 通してよ!!」

「いやああああああああああああああああ!!」


 押す者、押される者。

 進路を阻む者を蹴り飛ばす者。

 踏みつぶされる者。

 壁に押し付けられる者。

 もはや、地獄絵図だ。


【みんな~、静かにして~】


 澄んだ子どもの声が、体育館に響き渡る。

 喧噪が、一気に静まった。

 ウィーンと、機械音が鳴る。

 ステージの上手側から、巨大なてるてる坊主がゆっくりと降りてきた。マジックペンで5秒で描いたような、簡素な顔だった。


【突然ですが、みなさんに、デスゲームをしてもらいます!】


 犠牲者……校長

 残り 759名


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