第2話 混乱。そしてゲームは幕を開ける

「ゲーム……?」


 壁に張り付きながら、カイトは呟く。

 彼は体育館の左右それぞれ2つずつある、段差のある窪みに避難していたのだった。


【みんな、せっかくのいい天気なのに、こんな行事に参加させられて不満なんじゃない? だからさ、校長ハゲの代わりに、ぼくと遊ぼう!】


「ふざけるな!」


 1人の男性教師が怒声をあげた。


「そんなこと、受け入れられるわけないだろう!子どもたちにそんなこと、させてたまるか!」

「そーだ、そーだ!」


 教師に感化された児童複数人が、拳を振り上げ言った。


「オマエと遊んでなんかやらないよ!」

「さっさと失せろ、バケモノ!」


 体育館に、罵声が響き渡る。


【これはきょーせい参加です! 拒否はできないよ~】


 突如、天井から数十本の首吊り縄が降ってくる。紐は、男性教師が担当するクラス全員を吊り上げた。


「アグググッ、グゥウウウッ……」

「ウ"グウウウウウウ!!」

「アグッ……ガ……ッ……ア"……」


 吊られた児童が、苦悶の声をあげる。

 頭のはるか上で、合計60本の足が、不規則にじたばたと踠いている。

 まるで昆虫か何かだ。

 下から見る彼らは、とても同じ人間には見えなかった。


「なんて光景だ……」


 さすがのカイトも、硬直するより他なかった。


「やめろ……っ、やめてくれぇ……っ」


 男性教師が上に手を伸ばしながら、叫ぶ。

 天井から降ってきた雫が、無骨な指を汚した。


 体育館に、異常な雨が降る。

 広い空間は、ひどい異臭で充満した。

 吊られた児童は、全員息耐えた。

 だらんと項垂れた体が、ゆらゆらと揺れる。


 てるてる坊主が、ふよふよとステージから離れる。

 黯然銷魂あんぜんしょうこんとする教師の前にやってくると、ケタケタと笑いだした。


【かわいそうに! きみのせいで、みんな死んじゃったー!】


 ケタケタケタケタ。

 てるてる坊主は、シンプルな顔はそのままに、激しく振動した。


「こ……ろして……ころして……くれ……」


【うん、いいよー】


 軽い返事の直後、天井から縄が落ちてきた。

 そして、男性教師は天井に向かって上昇していった。


「い……や……」


 ゆらり、ゆらり。

 精悍な男が、力をなくして項垂れている。


「いやあああああああああ!!」

「きゃあああああああああ!!」


 耐えきれず、児童の何人かが出口へと走る。


「おい、よせ……!」


 事の重大さを理解した男子児童が、彼女らを止めようとする。

 ――が、時すでに遅し。


「あかない! なんで!? なん――――」


【参加拒否は、ゆるさない!】


 女子児童数名は、天井へと吊り上げられてしまった。


【さあ、みんなで遊ぼう。タイクツな日常を忘れて、命をかけて……ね】


 表情を変えぬはずのてるてる坊主が、ニタニタと笑っているように見えた。


【それじゃ、内容とルールを説明するね】


 てるてる坊主は、ふよふよと飛んでステージへと戻っていった。

 それとともに、大型スクリーンが下りた。

 画面には、黒い背景に血塗られた文字で「死のわらべ歌」と書かれたのが映し出されている。


【みんなにやってもらうのは、そこに書いてあるとーり! 童謡をモチーフにしたデスゲームです!】


 パンパカパーン!

 盛大な効果音が鳴る。


【ゲームは全部で8種類! 8つすべてクリアできたら、生き残れます!】


 画面が変わり、箇条書きでまとめられた①~⑧のゲーム名が映し出される。


 ①かごめかごめ

 ②さっちゃん

 ③ねこふんじゃった

 ④桃太郎・金太郎・浦島太郎

 ⑤やぎさんゆうびん

 ⑥花いちもんめ

 ⑦とおりゃんせ

 ⑧てるてる坊主


 どれも、一度は聞いたことのある童謡のタイトルだった。


【詳しいルールは、ゲームが始まるごとに説明するね! それじゃあさっそくゲームに移るけど、何か質問はある?】


「はい」


 あるはずないだろうと誰もが考えるより早く、カイトがすっと手を挙げた。


【どうぞ~】


「あのぉ。どうして8種類なんですか?」


 その場にいた全員が、信じられないものを見るような目をカイトに向けた。


【特に意味はないよ~。末広がりで、みんながより生き残れるように! って願いを込めてってくらいかな!】


「なるほど! サイコパス!」


 ぽかーんとする児童と教師たち。


「アイツ何やってんのよ……」


 隅のほうで、相も変わらずマイペースすぎる幼馴染みに呆れるミナミ。

 その口元は、無意識に笑みを浮かべていた。


「あとですねぇ。このゲームってけっこう骨ですか?」


【骨!?】


「はい」


 思わず聞き返すてるてる坊主。

 自信満々に頷き返すカイト。

 ざわざわ。

 集団が困惑する。

 てるてる坊主を含め、この場にいた全員がこう思った。


 こいつは何を言ってんだ、と。


「あ、あのぅ……」


 おそるおそる、ミナミが手を挙げた。


「たぶん……、難しいかどうか、聞きたかったんだと……」


 彼女の補足に、てるてる坊主はぴょこぴょこと跳ねた。


【分かった、そういうことね! ルール自体はそんなに難しくないよ! で・も♪】


 てるてる坊主が、ふわりとカイトの前に飛んでいった。


【生き残るのは、難しいかも♪】


 意地悪い声で、てるてる坊主が言った。


「どんと来いです」


 カイトも負けじと不敵な笑みを浮かべた。


【くすくす。キミ、面白いね。名前、なんていうの?】


雨宮海人あめみやかいとです」


【カイト君か。覚えておくね。すぐに死んだら、イヤだよ」


 てるてる坊主が、ふわりと天井高く舞い上がった。

 次第に、辺りの景色が暗くなっていく。

 それに伴い、排泄物の悪臭も消え失せていた。


 辺りが完全に闇に包まれた時、アナウンスが鳴る


【1曲目、「かごめ かごめ」。はっじまっるよー!】


 犠牲者

 児童33名、教員1名。

 残り 725名。



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