一曲目 かごめかごめ
第3話 かごめかごめ・開幕
「む。一気に人が減りましたね」
辺りを暗闇が包むと、700をゆうに超える数の人間が、一気に激減した。
不思議なことに、真っ暗になったのは景色のみで、そこにいる児童の姿ははっきりと見えた。
この場にいるのは、カイトを含めた児童10名。全員、カイトのクラスメイトだ。
その他の者たちがどこにいったのかは、全く分からない。
【ハイハーイ! それじゃあ、「かごめかごめ」のルールを説明しまーす!】
闇の中から、てるてる坊主の声が鳴った。
【ルールは簡単! その名のとおり、みなさんには、かごめかごめをやってもらいます。オニが「うしろの正面」を当てることができれば、ゲームクリア! その時点で残っていたプレイヤーは、全員生き残ります! もちろん、オニも含めてです】
「もし、オニがうしろの正面を外したら……?」
セミロングの女子が、おそるおそる聞いた。
【その時にうしろの正面になった人は、脱落! 死にます!】
死ぬ、という単語に、ほとんどの者が顔を青ざめさせた。
「嫌ですわ! 死ぬなんて! まだお嫁にも行けてませんのよ!」
「そんな……私たち、死んじゃうの……?」
児童は口々に恐怖の言葉を吐いた。
【オニがうしろの正面を当てるまで、ゲームは続きます。オニを囲う人が全員脱落したら、ゲームオーバーになります! ここまでで、何か質問はあるかな?】
「はい」
【何かな、カイト君】
「ゲームオーバーになったら、オニも死ぬんですかね?」
【ふふっ、いいこと聞くね。このゲームで、オニが死ぬことはないよ。つまり、オニになった時点で、生き残ることが確定するってことさ。でも――】
「はい! はいはいはい! 僕にオニをやらせてください!!」
てるてる坊主が全て言い切る前に、カイトは全力でオニに立候補した。
その場の全員が、驚愕の眼差しで彼を見た。
【アハハハ! キミは本当に面白いね! いいよ、オニはランダムで決めるつもりだったけど、決めた! キミにするよ、カイト君!】
てるてる坊主が、心底愉快そうに笑う。
【でも、分かってるの? オニになるってことは、自分のせいでどんどん人が死んでいく罪悪感と、うしろの正面を当てなきゃっていうプレッシャーを、1人で抱え込まなきゃいけないんだよ?】
カイトの顔が強張る。
そしてすぐに、参ったように頭に手を当てた。
「失念しておりました」
【キミ、けっこうバカなの?】
「何をう。失礼な」
【それじゃ、ルール説明の続きをするね】
カイトを無視し、てるてる坊主は続きを話した。
【何のヒントもなしにうしろの正面を当てるのは、さすがに運任せすぎるでしょ。そこで、救済!オニは3回まで、ボクにうしろの正面のヒントを聞くことができます!ただ、「はい」か「いいえ」で答えられるやつだけね。名前を聞くのもNG。質問は3回までだから、よくよく考えてから聞いてね】
「おい待て、オレらが教えるのはダメなのかよ。オマエはちゃんと答えてくれんのか!?」
鼻に絆創膏をつけた、いかにもやんちゃ坊主といった男子が叫んだ。
【あはは、ダメに決まってるじゃん。キミたちに任せたら、絶対答え教えるでしょ。安心してよ、ルールはちゃんと守るから】
彼らの顔が険しくなる。
てるてる坊主の言葉を、到底信じることができなかった。
「――信じるしか、ないよ」
猜疑心にまみれる児童たちの中から1人、すっと手を挙げる者がいた。
メガネをかけた、真面目そうな男子だ。
「何だよショウタ! アイツの言うこと信じるのか!?」
「手下にでもなったんじゃねーの!? 弱虫ショウタのことだからな!」
悪ガキたちがゲラゲラと笑う。
メガネの男子――ショウタは、悔しそうに俯いて、押し黙った。
【もー、下品だなぁ。キミたち、吊るすよ?】
ビクゥッと悪ガキ2人の肩が跳ねる。
彼らは顔を真っ青にして、黙り込んだ。
「そうだ……。ぼくたちは、こいつの手のひらの上なんだ……」
ぽつぽつと、ショウタは呟いた。
そして、覚悟を決めたように顔をあげた。
「てるてる坊主は、ぼくたち全員を殺すことなんてすぐにできるんだ。それをせずにデスゲームなんて茶番をやってるってことは、ゲームマスターである以上、ルールは守ってくれると思うよ。――それに、どのみちぼくたちには、こいつを信じるしか選択肢はないんだ」
勇気を振り絞って、ショウタは皆に意見を伝える。
悪ガキ達がぐっと押し黙った。
筋の通った意見に、カイトは「お~」と感心した。
【キミ、なかなか頭がキレるね! そのとーり! キミたちには、ぼくに従う以外に道はないのさ!】
楽しそうに、てるてる坊主は言う。
【さぁ、ルール説明は以上だよ!何か質問はあるかな?】
ショウタが何か言いたそうに、顔を上げる。
だが、勇気を出せずに黙り込んでしまった。
その様子を見ていた背の高い男子が、ショウタの肩をぽんと叩く。
「どした?」
「あ、えっと……」
ショウタの考えを聞き終えると、背の高い男子は、すっと手をあげた。
「歌うのって、おれらですよね?」
【ん? ああ、そこは特に決めてないから、ご自由にどうぞ。歌いたかったら、歌えば?】
「ありがとうございます。カイト~、ペンとメモちょーだい」
「? 別に構いません」
「サンキュ!」
カイトは背の高い男子にボールペンとメモ帳を手渡す。
彼はそれらを受け取ると、メモ用紙に何かをすばやく書いて、隣の眼帯の女子に渡す。
眼帯の女子は読み終わると、隣にいるロングヘアの女子に回した。
それを繰り返し、カイト以外の全員がメモの内容を頭に入れた。
「あのぉ、何をしたんです?」
「作戦会議。もう終わったよ」
カイトが問うと、セミロングの女子が答えた。
「あの、ありがとう。木谷君。きみが代わりに言ってくれなかったら……」
ショウタが、背の高い男子に礼を言った。
「シュウヘイでいいよ。こっちこそありがとな! オマエがいなかったら、おれらきっと絶望だったよ」
背の高い男子――シュウヘイがにかっと笑った。
【それじゃ、カイト君に目隠しするね~!】
どこからか謎の布が伸びてきて、カイトの目を覆う。
「おー。何も見えない」
カイトは呑気に言った。
【みんな覚悟はいいかな? では、「かごめかごめ」――スタート!】
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