第13話 虐殺
「どうしよ……、ユウナちゃん。始まっちゃった……」
ユウナの腕にひっつきながら、カナが言った。
「どうするも何も、逃げるしかないよ! 1分だけだもん、簡単だよ」
「で、でも……。スタートの合図から1秒も経たないうちに、悲鳴が……」
「ああっ、もう!」
ユウナはカナの手を乱暴に振り払った。
「くっつかないでよ! ジャマ!」
「ご……、ごめ……」
カナは泣きそうな顔になったが、すぐに歪んだ笑みを浮かべる。
「で、でもユウナちゃん。ユウナちゃんは、私を見捨てたりしないよね? だって、ユウナちゃんは、明るくて、ハキハキしてて、こんな私でも話しかけてくれて……っ」
「……ッ」
ユウナの顔が、苛立ちで歪む。
「はっきり言って、ウザイのよ!!」
溜まりに溜まった鬱憤が、ぶちまけられる。
カナの表情が、絶望に染まった。
「いっつもいっつもウジウジして、くっついてきて……っ、もうウチに話しかけないで!!」
そこまで言い切ると、ユウナは背を向けて走り出した。
「ユウナちゃん、まって――っあ!」
後を追おうとしたカナだったが、足をもつれさせ転んでしまう。
その頭上で、風が吹いた。
「はぁ……。やっと解放された」
ユウナはせいせいした様子で塀に寄りかかった。
「正直、あの子にもうんざりしてたのよね。……ん?」
ふと、向かい側の塀の窪みに男の子が蹲っているのが目に入る。
その小ささと、体操着姿には見覚えがあった。
最終問題を外し、その場にいた全員を巻き込んだ――――。
「アンタ……ッ! アンタのせいで……ッ!!」
ヒュン、と風が吹く。
ユウナの体は、上下に真っ二つになった。
残り、40秒。
「テケテケは、時速100キロで移動するんだ」
ショウタが言う。
「100キロ!? そんなん逃げられねぇじゃん!」
シュウヘイが驚愕して言った。
「まともに逃げればね。でも、速すぎるがゆえの弱点があるんだ。まずは――」
「うわああああああ! どっから来るんだよぉおおお!」
「わかんねぇよおおおおおおおお!!」
訳も分からず走り回る悪ガキたち。
道が左か右のどちらかに分かれた。
「タカシ、二手に分かれっぞ!」
「うわああああああああああああああ!!」
彼らが二手に分かれた直後。
塀に何かが激突した。
「今の音なんだよぉおおおおおおお!?」
もし、直進方向に道があって、悪ガキたちがそちらへ進んでいたとしたら。
――彼らの下半身は吹っ飛ばされていたことだろう。
「ハッ、どいつもこいつも情けねーな。足の速さなら負けねぇ、かかってこ――」
通路の真ん中で余裕そうにしていたタクトの下半身は、一瞬で吹き飛ばされた。
残り、30秒。
「ううううううっ。怖いですわ。怖いですわあああああああ!!」
塀にもたれかかって蹲り、ガタガタと震えるエリカ。
「お父さま……、お母さまあああああああああ……」
その時、1人の児童が通りかかる。
彼女のちょうど目の前で、児童の体が真っ二つになった。
弾けた血と臓物が、ビシャビシャとかかる。
「い……、い……っ、」
ドロドロ、デロデロ。
ぬめった感触と、生臭い臭い。
纏わりつく、赤――――。
「いやあああああああああああああああああああ!!」
残り、20秒。
「これは詰みましたね」
「詰みましたねじゃないわよ! こんな所で突っ立ってたら、さっちゃんに狙われちゃうじゃない!!」
迷路のど真ん中で、2人。
ミナミとカイトは、立ち尽くしていた。
「ゲーム開始の合図から、一瞬でものすごい数の悲鳴が鳴りました。逃げても逃げなくても同じです。さっちゃんが来ないことを祈りましょう。全力で」
「何言ってんのよ、バカァ!!」
ドン!
カイトを突き飛ばすミナミ。
「へっ!?」
変な体勢で突き飛ばしたせいか、ミナミもバランスを崩してしまう。
そうして、2人揃って地面に倒れ込んでしまった。
2人の頭上に、風が吹いた。
「今、なんか通ってった……?」
「さぁ?」
ふと、カイトを押し倒していることに気づいたミナミ。
一気に顔に熱が集まっていく。
「きゃああああああああああああああっ!? バカバカ、ヘンタイぃいいいいッ!」
「リフジン!!」
カイトの頬に、右ストレートが炸裂した。
残り、10秒。
「やぁ、待ってたよ」
【え……っ?】
スピードを急激に落とし、曲がり角を曲がろうとした佐知子。
その先で、何故か笑顔の高橋が待ち構えていた。
――かと思えば、彼女の額にナイフを突き立てた。
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