第12話 豹変

【ざんね~ん! 歌詞当てクイズ失敗です!】


 ステージを見ていた観衆も、壇上の者も。皆、その表情を絶望に変えた。


「うええええええんっ、うわあああああん!」


 誰もが静まり返る中、ユウだけが泣きわめき続けている。

 幼い子どもが、恐怖のあまり泣き叫ぶことすら、場違いな行為に感じられる空間となってしまっていた。


【クイズを失敗してしまった


 みんなには――――】



 さっちゃんの声が、幼くて高い声から、地獄の底から響くような低い声へと変化する。

 ――刹那、ぬいぐるみが、上下真っ二つに切り裂かれた。


「きゃーーーっ!!」

「ぎゃああああああああああああああ!?」


 ミツキの悲鳴。

 次いで、観衆の悲鳴。

 ステージ上に現れたのは、恐ろしい形相をした制服姿の少女。

 彼女の下半身は――――欠損していた。


【罰ゲームよ。キミたちの下半身、もらうからね】


 裂けた口が、ニタァと笑う。

 口を動かすたびに、ボタボタと赤黒い血が溢れた。


「やっぱり……! テケテケ……!」


 ショウタが立ち上がって、そう呟いた。


「テケテケ!?」


 振り返って、ミナミが聞き返す。


「テケテケは、下半身のない女の子の妖怪。女の子は電車にひかれて、上半身と下半身が別れてしまった。雪国だったせいで血が凍っちゃって、なかなか死ねなくて……すごく苦しみながら死んだらしいんだ。それで、女の子は妖怪テケテケとなって、失くした下半身を探しながら、人間の下半身を殺し続けてる、って話さ」

「それが、さっちゃんとどういう関係があるんです?」


 カイトが聞いた。


「童謡"さっちゃん"には、こんな都市伝説がある。さっちゃん……桐谷佐知子きりたにさちこは、電車にひかれて足を亡くした。だから、お前の足をもらいにいくんだって。そのことを歌ったのが、幻の4番。桐谷佐知子の死に方も、テケテケと同じなんだ。つまり、さっちゃんの正体は――」


【そう! 私はさっちゃんでもあり、テケテケでもあるの。どっちで呼んでもいいよ】


 フッ。

 辺りが闇に包まれる。

 かと思えば、次の瞬間には背の高い塀が辺りを囲っていた。


「なんだ、これ?」

「迷路……?」


 突然変わった景色に、皆困惑しながら辺りを見渡した。


「カイト、何が起きたの……?」


 ミナミが不安げに問う。


「分かりません。ですが、近くにいた人がみんな消えているということは、バラバラにスポーンさせられたみたいですね」

「スポ……?」


 すっぽんぽん……? とミナミは首をひねった。


【はいはーい! 罰ゲームのルールを説明するよ!】


 佐知子の声が鳴った。


【今から私が、キミたちの下半身を狩りに回ります。キミたちは、私から全力で逃げ回ってね。制限時間は1分! それまでに生き残れたら、ゲームクリアよ】


「1分か。なら余裕だな」


 シュウヘイが呟く。


「……」


 その隣で、ショウタは顔を青くしていた。


「それじゃ……よーい、どんっ!」


 ――たった1度、瞬きするだけの時間。

 たったそれだけの間で、複数の断末魔が響いた――。

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