第14話 想定外の結末

「テケテケの都市伝説。子どもたちから聞いたことがあるよ。致命的な抜け道を用意するなんて、キミはドМなのかな?」


 ――ず。


 突き立てたナイフを、そのまま下へ。

 顔の真ん中に、赤い線が描かれる。


「超高速で移動するがゆえに、小回りが利かない。急に曲がれないし、高低差に適応できない。それがキミの弱点だ」


 ブシュッ。

 引き抜いたナイフを、今度は右目へ突き立てる。


「だから、こんな曲がり角だらけの迷路で鬼ごっこを仕掛けるなんて、ニゲテクダサイって言ってるようなもんだよ。それに、動きが遅くなる隙に――」


 ドスッ。

 下から、胸にナイフを突き刺した。


 佐知子の口から、ごぼ、っと大量の血が零れる。


「こうやって反撃されるって、思わないのかなぁ?」


 ドスドスドスドス。

 何度も、何度も、何度も。

 突き上げるように、上半身にナイフを刺し続ける。


「子どもたちの痛み、思い知れ」


 低い声で、言い放つ。

 佐知子の動きが、ぴたりと止まった。


【ふ、ふふ……】


 大量の血を溢れさせながら、佐知子は笑う。


【それは建前でしょう? 高橋先生。あなた今、自分がどんな表情カオしてるか分かってる?】


「さぁ? 知らないね」


 ず――。

 上半身に突き立てたナイフを、横へスライドする。

 ボトボト、ビチャビチャと音を立てて、内臓が地面に零れ落ちた。


【ぐふ……っ、ふふ。都市伝説わたしなんかより、人間アンタのほうが――】


 よっぽど化け物よ。


 そこまで言うと、佐知子は力なく地面に落ちた。

 ぐったりとして動かなくなった少女を見下ろす高橋の表情は――――。


 恍惚としていた。


 ゴゴゴゴゴ……。

 地の鳴る音がする。


「うわっ!?」

「今度は何よおおお!? 終わったんじゃなかったの!?」


 ざわつく児童たち。

 空間の主が無力化したことで、迷路の世界は崩壊し始めていた。


【緊急事態、緊急事態! ボクが逃げ道を作ります!】


 てるてる坊主のアナウンスが鳴った。


「逃げ道って、何言ってんだ……ってうわああああああああ!?」


 地面に大穴が空き、プレイヤーたちは問答無用で落下していった。


【まったく、やらかしてくれたね。高橋先生。まさかさっちゃんを倒しちゃうなんて。想定外だよ】


【世界】の狭間。

 体育館へと落下していく高橋の耳に、てるてる坊主の声が鳴った。


「別に良くないかなぁ? ゲームマスターを殺したらダメなんてルール、説明されてなかったし。かごめかごめの時もそうだけど、キミたちの作るゲーム、けっこうガバガバだよね」


【くすくす。さっちゃんは油断したかもしれないけど、ボクはそうはいかないからね。ま、せいぜい頑張って~】


 ――高橋は、暗闇の先へと堕ちていった。


【やっぱり、いちばん怖いのは人間だね。今、このからだになっても、そう思うよ】


【世界】の狭間。

 誰もいなくなった暗闇で、【彼】はひとり、呟いた。


「命の危機に瀕した時、ヒトは本性を現す。キミの魅せる醜い姿……楽しみにしてるからね」


 犠牲者

 児童60名

 教師8名

 計68名。


 残り、149名。

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