幕間

Iの追憶

 ウチの名前は岩崎優菜いわさきゆうな

 好きなことはおしゃべりとショッピング。

 家族は、お父さんとお母さん、そして弟がいる。


 学校は楽しい。

 早起きとか、宿題とかはイヤだけど、それ以上に、クラスのみんなとわいわいできるのが大好きだ。

 ウチのクラスは面白い。

 お嬢様口調で話す子はいるし、まったく喋らない子もいる。

 口を開けば変なことを言う子もいる。あまりに何言ってるのか分かんないときは、幼馴染の子が訳したりしてたっけ。

 すっごくかわいい子もいるし、ぽっちゃりで口癖が「はにゃ!?」なマスコットの男子もいるんだよ。


 ……でも、1人ちょっと苦手な子がいたな。


 その子の名前は、遠藤加奈えんどうかな

 ロングヘアで、清楚系っていうの? かわいい子ではあるんだけど……。


「ねぇねぇ! 一緒のクラスになるの、初めてだよね! ウチ、ユウナ! よろしくね!」


 クラス替え直後、カナはウチの後ろの席だった。

 女の子で、いちばん話しかけやすい位置にいたし、打ち解けようと思ったんだけど――。


「…………」


 カナは目を上下左右にせわしなく動かしたかと思うと、無言で俯いた。

 これが、ウチとカナの最初の会話。

 もう、あの子とは関わりたくないなぁって……思ってたんだけど。


「は~い、遠足のグループ作って~! ……誰かカナをグループに入れてやって!」


 ……沈黙。


「は、は~い! ウチらのグループ、人数余ってるから入って~!」


 いたたまれなくなって、思わず名乗り出てしまった。

 思えば、それが始まりだったのかもしれない。


「今からディスカッションを始めます。チームを作ってください! ……誰か、カナちゃんを入れてあげて」

「は、は~い! カナちゃん、おいで~!」


 どうして誰も誘わないのか。

 どうしてカナは自分から言い出さないのか。

 空気に耐え切れずにグループに引き入れては、もやもやを抱えていた。

 せっかく誘っても、カナはぜんぜん意見を言わないから余計にイライラした。

 まったく喋らない子――チヒロちゃんだって、筆談で意思表示するっていうのに。


「ユウナちゃん!」


 孤立しそうになるたんびに話しかけていたら、いつの間にかとても懐かれていた。

 ウチは友だちとしゃべりたいのに、カナが近づいてきたらさっとどこかへ行ってしまう。

 そして、いなくなると決まってこう言うのだった。


「ユウナは優しいよね。あんなんに構ってあげて」


「構えって空気を出してるのは誰だ」という言葉を、何回のみ込んだか分からない。結局、ウチはカナの世話係という役割を、押しつけられた。

 目を潤ませたカナにすがりつかれるたび、何度も作り笑いを浮かべる日々。



 ――それは、あり得ない非常事態でもおんなじで。


「ユウナちゃん……」


 不安そうな表情で、いつでもつき纏ってくる。

 いつ自分の番がくるのかも分からない地獄。

 そんな時にまで、ひっついてこないでよ。


 しかも今は、とかいう1年のせいで、化け物と鬼ごっこをしなきゃいけないっていうのに!


「はっきり言って、ウザイのよ!!」


 言ってやった。

 ついに言ってやった。

 カナが転んだみたいだけど、知らない。

 こんな時くらい、解放して!


 ずんずんと進んだ先で、ウチは見た。

 体操着を着た、小さな男の子。

 ソイツは――――。


「アンタ……ッ! アンタのせいで……ッ!!」


 ――――ヒュンッ。


 風を切る音とともに、七枝夕の姿が消える。

 塀が視界を流れていく。

 あれ、ウチ今、どうなって――――。


 ……?


 何でウチ、自分の靴を横から見てるの?


 それを最後に、景色が暗転した。

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