56話 てるてる坊主の正体

 A 14番がほしい

 B 8番がほしい


 Aチームは、参戦したばかりの14番――大空照太を。

 Bチーム――ショウタは、数少ない生き残りの1年生、七枝夕を指名した。


「宣言どおり、ぼくを選んだんですね。先生」


 恐れることなく、ショウタは堂々と前に出た。

 高橋は、ルールさえなければ今にも殺しにかかりそうな表情で、ショウタを睨みつけていた。


「ショウタ……」


 後ろから、シュウヘイが呼びかけた。

 心配そうに、ショウタを見つめている。


「大丈夫だよ。きみを信じてるから」


 ショウタは笑顔で振り向くと、再び前を向き直った。


(普段のぼくなら、逃げてるだろう。でも――)


 向かいに立つ、Aチームの8番――ユウを見据える。

 彼はもう、泣いていなかった。……が、終始顔を下向かせており、表情は読み取れない。


「勝負だ、七枝夕」

「…………」


 カードを構えるショウタ。

 ユウもまた、すっとカードを取り出した。


「「はないちもんめ!」」




 待機中、ショウタはある違和感に気づいた。


 ――それは、やけに静かすぎること。

 すすり泣く声は聞こえど、泣き叫ぶ声は聞こえない。あれだけ大泣きしていた子どもが、一声も発していなかったのだ。


(あの子……七枝夕君、だったか。そういえば全然泣いてな――)


 そう思考して、ショウタははっと気づいた。


 ゲームから「シ」を引け。それは「吊り下げられた者たち」を意味する。

 そして、そいつがてるてる坊主の正体だ。 「シ」=1


(暗号の答え……てるてる坊主の正体は、七枝夕だ!!)


 ゲームの数は、全部で8つ。8-1は、7。

 7という文字を持つのは七枝夕だけ。そして、その名から「シ」――「枝」という1文字を引けば、七夕になる。

 七夕といえば、思い起こされるものが1つあった。


 ――宮城県仙台市で開催される、日本最大の七夕祭り。数日前、日本の祭りを調べる授業で、その存在を知った。

 写真に映っていたのは、たくさん吊り下げられた、華やかな装飾たち。

 それはまるで――――。


(なんで……、なんでもっと早く気づかなかった!? 思い返せば、あまりにも不自然だったじゃないか!!)


 ショウタは頭を抱え、ギリリと歯を噛みしめる。


(そもそも、1年生が2人だけ生き残ってる時点でおかしいじゃないか! 何で今までスルーしてたんだ!)


 正体が分かったあとは、ユウの行動すべてが計算としか思えなくなった。


「かごめかごめ」で生き残ったのではなく、大人数の混乱の中でいつの間にか紛れ込んだから。

「さっちゃん」の歌詞を外したのもわざと。

「ねこふんじゃった」でBチームに身を置いたのは、彼らが生き残ることを知っていたから。

「浦島太郎」を選んで生き残ったのは、自分がてるてる坊主だからこそ――。


 1度答えが分かってしまえば、さまざまなことに辻褄があっていく。

 そのたび、「なぜ気づかなかった」と後悔が襲ってきた。


 そして、1つ不可解な点が浮上した。


(七枝夕がてるてる坊主なら、もう1人の1年生は何なんだ……?)


 そう思考して、ショウタはすぐに首を横に振った。


(よそう。あの暗号には、七枝夕のことしか書いてない。見えないことより、見えたことを優先するべきだ)


【は~い、どんどん行くよ! Aチームは12番の子、Bチームは14番の子、列に加わってね~】


 答えを導き出したところで、てるてる坊主のアナウンスが鳴った。

 ……出番だ。ショウタはすっと立ち上がった。

 列に加われば、絶対に無事では済まない。最低でも、欠損は免れないだろう。

 だが、不思議と恐怖はなかった。それ以上に、てるてる坊主を倒すという思いが強いゆえだろう。


 とうに覚悟は決めた。

 ショウタは、毅然と列の中に加わった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る