57話 継がれる意志

 話し合い・Bチーム


『七枝夕――8番の子を選ぶよ。反対意見は認めない』


 話し合いになるや否や、ショウタはそう宣言した。

 当然、チームの者は皆、不満を抱いた。


『バカじゃないの!? その子を選んだら、高橋先生がブチギレるじゃん!』

『そうじゃなくても、アンタ最低だよ。1年生選ぶなんて』


 口々に非難するチームメイトたち。


『……その子を選ぶのは、いちばん高橋先生の地雷だよ。分かってるの? っていうかそもそも、今までの地獄、見てた……?』


 サトリが窘めるように問うた。

 しかし、ショウタは一切気にする様子もなく、淡々と口を開いた。


『見てないよ。そんな余裕なかったもの』

『この……ッ!』


 7番の児童が、ショウタに殴りかかろうとする。

 その拳を、シュウヘイが止めた。


『何すんだよっ!』

『理由があるんだろ? ショウタ』


 怒る男子を意に介さず、シュウヘイは問いかけた。

 すると、ショウタは無言のまま、シュウヘイに1枚のメモ用紙を渡した。

 その内容を見たシュウヘイは、血相を変えた。


『おれもショウタに賛成だ!』


 声高らかに宣言する。

 Bチームの児童は皆、困惑してシュウヘイを見た。


『何でそいつの言うこと聞くの!?』

『そうだよ! こんなろくでなし――』

『それを言うなら、高橋のほうがよっぽどロクデナシだろ』


 シュウヘイの言葉に、非難してきた彼らはぐっと押し黙った。


『それに、おれたちは情けねーよ。1人の大人に怯えてさ、本当に倒すべき相手を見失っちまうんだから』


 自嘲するように言うと、シュウヘイはチームメイトたちを睨みつけた。


『地雷地雷っつっても、最後には選ばなきゃなんねーんだ! 高橋の顔色ばっか窺ってたら全滅だぞ! 文句があんなら、ショウタより良い案考えて出直してきやがれ!!』


 しぃん、と静まり返るBチーム。

 シュウヘイの演説を最後に、言葉を発する者はいなかった。


『ずいぶん白熱してるね。不利だから焦っているのかな?』


 尋常ならざる雰囲気はAチームにも伝わったようだ。

 少し離れたAチームの輪から、高橋の声が鳴った。

 怯えるBチームの子どもたち。

 しかし、ショウタは臆せずに言う。


『ぼくらは8番を選ぶって話してました!』

『へぇ?』


 高橋の雰囲気が、恐ろしいものへと変化する。

 凄まじい殺気が辺りを包み、子どもたちは恐怖で立ち尽くした。


『ショウタ君……?』

『あの子、あんなはっきり物を言えるタイプだったっけ……?』


 大人しい姿しか知らないミナミとカヅキは、戸惑いながらその様子を見守った。


『おかしいことはないですよね!? だってその子、一番弱そうだから!!』

『1年生を選ぶだなんて……っ、かわいそうだと思わないのかい!?』


 高橋の声は、怒りで震えている。

 しかしショウタはひるまずに、さらにまくし立てる。


『そっちこそ、子ども相手に大人げないことしてますよね!? そういうの、ブーメランっていうんですよ!』


 ……ブチン。

 実際に鳴ったわけではないが、確実に高橋がキレる音を、誰もが聞いた。


『いいだろう。ならこっちは、14番……きみを選ぼう。泣いて謝っても、許さないからな』

『望むところです。どのみちあなたは、ぼくに頭を下げることになりますから』

『……っ! そうやって、大きい口を聞けるのも今のうちだからね』


 睨み合う高橋とショウタ。

 2人の間に、バチバチと火花が散った――――。



「っな――」


 場面は戻り、ショウタとユウの勝負の時。

 出されたカードを見て、ショウタは目を剥いた。


 ショウタの出したカードは「腕」。一方ユウの出したカードは――「足」だった。


 ――ショウタの、負けである。


(でも、大丈夫)


 しかし彼はまったく動揺していなかった。

 穏やかな顔で、開示したカードを手札に戻す。


(相手は化け物。勝負に勝てるなんて、ハナから思ってない。重要なのは、ここから)


 猫又たちが、ショウタのもとへやってくる。

 数々のプレイヤーの体を切り裂いてきた刃が、例外なく彼にも向けられる。


 ショウタは振り返り、シュウヘイに視線を送った。


「あとはたのんだよ、シュウヘイ!」


 猫又が、ショウタの両腕を切り落とすのと同時に。


「たのまれた!!」


 列の中から、シュウヘイが飛び出す。

 ショウタの横を通り過ぎると、そのまま棒立ちするユウを押し倒した――。

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