55話 拷問ゲーム⑦

 A 4番がほしい

 B 10番がほしい


「マジか…………」


 指名されたAチームの10番――瀬戸良樹せとよしきが、絶望して呟いた。


「へぇ。そこを選ぶんだ」


 高橋は意外そうに呟くと、ヨシキの傍に立った。


「キミが選ばれるのは予想外だったけど、相手は弱ってる。作戦を実行したあと、おれの言ったカードを出せば、絶対に勝てるよ」


 ヨシキの肩を叩き、高橋は言った。


(いやできるか!!)


 心中で、ヨシキは全身全霊の否定をした。

 "作戦"とは、カード提出前にミナミを指名したことを咎めること。そんな鬼畜の所業、ただの問題児に過ぎないヨシキに、できるわけがなかった。


(大丈夫。センコーに逆らうのは得意なはずだろ、オレ。なんて言われようと、作戦は無視だ。それに――)


 ヨシキはちら、とアオイを見やる。


(オレの直感が言ってる。4番の奴は、きっと一筋縄じゃいかねーぞ)


「…………」


 アオイはうつろな目で、下を向いていた。


「それじゃ、両者カードを拾ってね。Bチーム~、前の人みたいにカード投げ捨てないでね」


 てるてる坊主が釘をさす。

 アナウンスに従い、両チームの2人はカードを手に取った。


『彼女にはもう、生きる意思はない。だから1番弱い「爪」を出してくるだろう。きみは「指」を出せばいい』


(オレのカンが当たれば、たぶんこいつは――)


「「はないちもんめ!」」


 同時にカードを提出する。

 数秒の沈黙の後、アオイはおもむろに顔をあげた。


「……なん、で?」


 彼女の提出したカードは、「腕」。

 これを超えるカードは「足」しかなく、勝っても「足」よりはマシ、負けても相手を道連れとほぼ同じ状態にできる――つまり、覚悟の決まった者にとって、出し得なカードなのだ。

 だが、ヨシキはさらにその上を行った。

 すべて読みきった上で、彼は「足」を出したのだった。


「なんとなく、カンだよ。お前はメンタルが強そうに見えた。真っ当に勝負してくると思ったんだ。高橋の思考を読んで、オレがそれに従うって思ったんだろ」


 ヨシキはカッと目を見開いた。


「けど残念だったな! オレはアンタがそうしてくるのを読んでた! オレの勝ちだ!」

「……すごいな」


 さすがの高橋も意表を突かれたようで、驚いた顔でそう呟いた。


【お見事~! すごいね、ヨシキ君!】


 てるてる坊主が、はしゃいだ様子で言う。


【アオイちゃんもすごかったけど、ヨシキ君が一枚上手だったね。うん、いい勝負だった! それじゃ――】


 猫又たちが、アオイの腕までやってくる。


【清算の時間だよ】


 凶刃は、アオイの細腕を切り裂いた。


「っあ"あああああああああああああああああ!!」


 凄まじい絶叫。

 ボトボトと、2本の腕が床に落ちる。

 あっという間に、アオイを中心に血の海が広がった。


「アオイぃいいいいいいい!!」


 叫ぶカヅキ。

 目を覆うミナミ。

 死んだ目で清算を見守る他の者たち。

 彼らの反応など関係ないと言わんばかりに、アオイは布を被され、吊り上げられていった。


【次はヨシキ君の番だね】


 ヨシキの太もも付近に、血のついた猫又たちがやってくる。


 ついに、来た――ヨシキは、無意識に身体を強張らせ、ぎゅっと拳を握りしめた。

 冷や汗が伝う。これから味わうであろう痛みを想像すると、気が狂ってしまいそうだった。


「頑張れ、ヨシキ君。一緒に生き残ろう!」


 両手にグーを作り、高橋が励ます。

 とてつもない嫌悪感に襲われたヨシキが盛大に顔を顰めたその時、猫又の刃が彼の足を刈った。


「う"わあ"ああああああああああ"あああ!?」


 想像を絶する激痛。

 あまりの痛みに、ヨシキの心はすぐに折れた。


 支柱を失ったはずの彼の身体は倒れず、宙に浮き続けている。

 まるで、ゲームの続行を強制するかのように。

 しかし、大の大人でも失神するような激痛を、小学生が耐えきれるわけもなく。


【あれ、ヨシキ君? ヨシキく~ん!】


 返答はない。

 彼の意識はもう、なくなっていた。


「ヨシキ君っ!!」


 高橋が、慌てて彼のもとへ駆け寄る。


「もったいないよ! せっかくナイスプレイで勝ちに持って行けたのに! ここで気絶したら、全部無駄になっちゃうんだよ!?」


 ガクガクと肩を揺さぶる高橋。

 当然ながら、ヨシキはされるがままになっていた。


「……」


 数回揺さぶって、高橋はすぐに離れた。

 弛緩した身体。上向いた目。

 もうダメなのだと、すぐに理解した。


「残念だよ、ヨシキ君……」


 高橋は肩を落とすと、列に戻っていった。


【は~い、どんどん行くよ! Aチームは12番の子、Bチームは14番の子、列に加わってね~】


 間髪入れず、容赦なく。

 てるてる坊主のアナウンスが鳴った。


「あーあ、ついに来ちゃったな。お願いだから生き残ってくれよ、な?」


 Bチームの補欠組――17番のソラが言う。

 しかしショウタは見向きもせずに、一切の迷いなく列に向かって行った。


「って、無視かよ!?」


 後ろからブーイングが飛ぶが、構わない。

 彼の目はただ、ある一点を見据えていた。


(覚悟は決めた。やるべきことは、ただ1つ――――てるてる坊主を、倒す!)



 犠牲者……児童2名。

 残り、30名……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る