33話 桃太郎・開幕

 ――校庭移動組・ゲーム「桃太郎」


【よくぞ来てくれた。改めて、拙者はこのげえむの主催者、桃太郎なる者。皆の衆、よろしく頼む】


 桃太郎は遊具の前に立ち、恭しく挨拶をした。

 プレイヤーは、桃太郎と向かい合う形で整列させられていた。

 参加人数は、30人程度だ。


「なんか、久しぶりに外に出た気がするね」


 カヅキが赤メガネの女の子に話しかける。

 女の子は、黙ってこくりと頷いた。


【では、るうるの詳細を説明いたす。浦島太郎からもあったと思うが、これから執り行うのは障害物競走である。競走とは言うが、げえむくりあに順位は問わぬ。だが、優れた3名にはきびだんごの褒美があるゆえ、留意しておいてくれ】


 景品がただの食べ物だと知り、プレイヤーたちから闘争心が消え失せた。


【競技の流れは、まずは校庭を大きく囲う白線を1周する。終わった者から、「サル」の種目に移って頂く。「サル」は、拙者の背後にある遊具のそのまた後ろにある木を登り、枝にあるサルの模型を触ればくりあだ】


【続いて、「キジ」である。「サル」をくりあした者から、木の上へと案内させて頂く。立った木から、別の木に飛び移ることができれば、くりあである。なお、落下を防ぐ結界が張ってあるゆえ、何度でも飛ぶことができるぞ】


「そ……、その結界ってやつ……、木登りの時はやってくれないの……?」


 カヅキが震えながら手をあげた。

 ソウタを鼓舞した時の気丈さは、完全に消え去っている。

 すると、着ぐるみのはずの桃太郎の顔が、くわっと怒りに変化した。


【何を甘えておるか! 失敗することで支障をきたすものでなければ、張らんわっ!】


「だ、だって……、木登りだって」


【まだ説明の途中である。妨げないで頂きたいっ!】


「ぴえん……」


 異論は認められず、カヅキはしゅんと黙り込んだ。

 赤メガネの女の子は、不思議そうにカヅキを見上げた。


【最後に、「イヌ」である。おぬしらの後方――校舎側の方向で、人魂が飛んでおる。それをひとつ咥え、拙者のもとへ走りついた者からくりあである】


 プレイヤーたちが振り返ると、桃太郎の言葉通り、そこには無数の人魂が飛んでいた。

 子どもの手のひらサイズの青い魂は、水槽の魚のように、ゆったりと漂っていた。


【捕まえる際、手を使うのは禁ずる。手を使った場合、はじめの白線1周からやり直して頂く】


 やり直し、という言葉に、空気がぴりつく。


【げえむは幾度でもやり直して構わぬ。くりあの意思を失わぬ限り、脱落とはならぬ。上位を狙うより、自分の配分で、ゆるりとくりあすることをお勧めいたす】


 そこまで言うと、桃太郎はプレイヤー全体を見渡した。


【説明は以上である。何か質問のある者はおるか?】


「あの……」


【おぬしの質問は受け付けぬッッッ!!】


「聞いてよぉおおおおお!?」


【では、皆の衆。旗の置かれた場所へと立ってくれ】


 カヅキの言葉は受け入れられず、強制的に進行される。

 桃太郎の指示に従い、プレイヤーはぞろぞろと白線の所へ並んでいった。


【あ。すたあとの前に、1つ言い忘れておった】


 そう呟くと、桃太郎は鬼の形相になった。


【くれぐれも、ぷれいやあ同士で足を引っ張り合うことのなきよう。妨害行為と見なせば、即座に両者とも斬り伏せる!】


 ――キンッ……。

 旗棒が、上下真っ二つに両断された。

 旗が地面に落とされ、低くなってしまった棒切れを、皆あぜんとして眺めた。


【では、競技を始める。いちについて……】


 桃太郎が、片腕を真っ直ぐ伸ばす。

 プレイヤーは、走り出す構えをとった。


【よーい、すたあと!】


 ゲーム「桃太郎」が、開幕した。




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