六曲目 花いちもんめ

47話 怒れる怪物

【これから、「花いちもんめ」のルールを説明するよ。プレイヤーのみんなは、ステージに注目してね】


 苛立った声で、てるてる坊主は説明を開始した。


【みんな、花いちもんめのルールは覚えてるよね?】


「どんなんだっけ? 花いちもんめって」


 1人の女子児童が呟いた。

 ――その時だった。


【いちいち説明するのめんどくさいから、キミ死んで。知ってる人だけでやるから】


「え――――?」


 首吊り縄が一直線に振ってきて、女子児童を吊り上げた。


「おい、理不尽すぎるだろ! ふざけんな!」


【うるさいなぁ】


「ア"ガッ――――!?」


 抗議した男子児童も、吊り上げられてしまった。

 しぃん、と静まり返るプレイヤーたち。

 人の少なくなった広い空間に、2つの悲鳴はよく響いた。


(何も言うな)

(少しでも反抗したら、殺される……!)


 プレイヤーたちは、すべての言葉を押し殺した。

 化け物は、台風の如く怒っている。

 言葉もリアクションも、今はもう許されない。

 たった数ミリでも動けば、すぐにでも殺されてしまいそう――そんな感覚に支配されていた。


【静かになったね。説明を再開するよ】


 てるてる坊主が言った。


【あの子が欲しいで選ばれた2人は、共通のゲームで勝負してもらいます】


 スクリーンに、4つのカードが映し出される。

 それぞれ、爪、指、腕、足が描かれていた。


【選ばれた2人には、画面に移っている4つのカードが配られます。カードは、見ての通り爪、指、腕、足の4枚です。これらの中から1枚選び、「はないちもんめ!」の掛け声とともにカードを1枚出します。これが勝負の内容ね】


【カードは、爪<指<腕<足の順で強いですが、足は爪に負けてしまいます。この強さに従って、勝敗が決まります】


【敗者は出したカードの部位を失ったあと、吊り上げられます。そして、勝ったチームに「てるてる坊主」として加わります。勝者はその部位を失いますが、止血するので死にません」


【ま、勝ったチームは、生きてさえいればゲーム終了後に傷が全部治るから安心してよ。ちなみに、1度「勝負」を終えた人を指名するのもありだよ。その場合、勝負中だけは切断された部分を再生させるからね】


【なお、このゲームは、どちらかのチームが全員いなくなるまで続きます!】


 告げられたゲーム内容に、戦慄が走る。

 児童はもちろん、高橋や桑原でさえも逃げたいと思った。


 生贄を選ばなければいけない罪悪感、自分が選ばれるかもしれないという恐怖。

「かごめかごめ」のような精神的苦痛に加えて、今度は肉体的苦痛までもが襲ってくる。――しかも、「かごめかごめ」のように抜け道があるわけでもない。


 何の救済もなく、十数人以上が確定で死ぬのだ。


【説明は以上だよ。なにか質問はある?】


 ……沈黙。答える者は、誰もいなかった。


【ないね。それじゃあ、チームの発表に移るよ】


 スクリーンに、チーム分けの内容が表示される。

 A,Bの2チームに分けられており、プレイヤーたちは①~⑲(⑱)と番号づけされていた。⑪から下の名前は、名前は違う色で書かれている。


【色の違う人たちは、補欠ね。2チームでやるには、ちょっと人数が多いからね。基本、10人vs10人でやってもらう。1人脱落したら、数字の小さい順に補欠が入ってね】


「おれはまたBか。おまえらは?」


 シュウヘイが聞いた。


「わたし、B。シュウヘイさんと同じ」


 アオイが答えた。


「私はA~」

「ミナミもAなんだ。よろしくね」


 ミナミとカヅキはAチームのようだった。


「ショウタ君は?」


 ミナミが聞くが、ショウタは考え事をしたまま黙り込んでいた。


「ショウタ!」

「うわあああっ!?」


 シュウヘイが肩を叩くと、ショウタは盛大に驚いた。


「おまえBチームだって。おれと同じ」

「え……、何? なんのこと?」


 困惑しながらそう言うショウタに、シュウヘイは呆れ顔になった。


「おまえ、今までの話聞いてなかったん?」

「えっ……、ああ、うん。ずっと考え事してて」

「マジか……」


 あれほどの残虐な説明を完全にスルーしていたという事実に、シュウヘイだけでなく女子3人も唖然とした。


「あ~でも、大丈夫か。おまえ14番だし。運がよけりゃゲームやらないで済む」

「どういうこと?」


【①~⑩のプレイヤーのみんなは、横1列に並んでね。ステージ側はAチーム、その向かい側がBチームね】


 てるてる坊主のアナウンスが鳴る。


「じゃあおれ、8番だから行くわ」


 そう言うと、シュウヘイはBチームの集合場所へと向かって行った。


「私たちも行こ。ミナミ」

「うん……」


 カヅキが呼びかけた。

 彼女がBチームのメンツにかける言葉はなかった。……否、見つからなかった。

 Aチームのミナミ、カヅキ。Bチームのショウタ、シュウヘイ、アオイ。

 そのどちらかが、絶対に死ぬのだから。


「ショウタ君!」


 ミナミが駆け寄った。


「私たち、クラスではあんまり話さなかったけど……! でも、この地獄で一緒に戦ったこと、忘れないからね!」

「……? まるで今生の別れみたいに言うんだね」

「ゲームを見てれば、分かると思う……」


 俯きながら、ミナミはそう言うと、「じゃあね」とカヅキのほうへ走って行った。


「…………」


 やり取りを終えると、まるで今までの会話がなかったかのように、ショウタは再び思索にふけり始めた。


(ヤギから出された、てるてる坊主の正体……。その謎が解ければ、この地獄を終わらせられる……)


 ゲームから「シ」を引け。それは「吊り下げられた者たち」を意味する。

 そして、そいつがてるてる坊主の正体だ。 「シ」=1


 謎の文字列を頭に浮かべながら、ショウタは思考する。


(何らかの不具合が出たのか、幸い記憶は消されなかった。でも、さっきの怒り具合からして、暗号を共有なんてしたら殺されかねない……)


 理不尽に吊られていった2人の児童を思い返し、ぐっと拳を握りしめる。


(なんとか僕1人で暗号を解読して、てるてる坊主の正体を突き止めなきゃ……!)


 犠牲者……2名

 残り、37名……。




















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