Uの追憶 後編

【それぞれのゲームの大まかな概要だが、こんな感じだ】


「浦島太郎」をやさしい、「桃太郎」をふつう、「金太郎」をむずかしいと表記した。ま、精神的には桃太郎→金太郎→浦島太郎の順でキツイと思うけど。

 でも、嘘は言ってない。

 何故なら「浦島太郎」は、説明そのまま、「魅惑的な選択肢を避け続ける」ことしか強いられないのだから。案の定、俺のところに大半のプレイヤーが集結した。


 それが、地獄の始まりだとは知らずに。



「っふ、ふぇええええん……」

「うわぁあああん……」


 プレイヤーたちを1人1人ゲームルームに送ると、期待通りの反応が観れた。


「ほら、ヨウ君。はやくおうちに帰っておいで」

「ア"アアアアアアアアアア! イダイイダイイダイィイイイイイ!!」


 あるプレイヤーに出された、第1問め。

 提示されたのは、微笑みながら手招きをする母親と、燃え盛る自分自身の幻影。

 幻影は、ゲームの効果でかなりリアルに作られている。

 小学生に――いや、まともな人間に、「魅惑的でない選択肢」など選べるわけがない。

 1度でもハズレを選べば、正気を失い、発狂し――やがて、死ぬ。

 プレイヤーたちは皆、吸い込まれるようにハズレを選び、発狂していった。


「おかあ……さん……ふ、ふふふふ……、フフ、フ……」


 俺を陥れた木戸千尋もまた、ハズレを選んで正気を失った。

 最っ高の気分だった。


「やり返したつもりが、またやられてやんの! ざまあねぇな!」


 モニターを指さしながら、俺は大爆笑した。


「ん?」


 たった1人だけ、淡々と道を進んでいくプレイヤーがいることに気づく。

 こいつは高橋幹人。「ねこふんじゃった」でCチーム代表として出ていた教師だ。


 高橋は、自分の死を見せられようが、教え子たちが炎に包まれようが、迷わず正解を選んでいく。しかも、あくび混じりに。


 ――やっぱり、こいつは明らかに異常だ。


【おかえり。クリア第一号だぜ】


 モニタールームを出て、俺は高橋を迎えに行った。

 この異常者は、自分のせいでガキどもが壊れてると知ったら、どんな反応をするのか――興味があった。


「おや、そうなのかい? 焦らず来たから、先にクリアしている子もいると思ったけど」


【確かめてみるか?】


 期待に胸を踊らせながら、俺は映像を映した。


『ママああああああああああ!!』

『おうちにかえりたいよおおおおおお!!』

『うわあああああああああん!!』


「な――――」


 教え子たちの泣きわめく様子は、さすがに堪えたようだ。

 目に見えて動揺している。


【何でこうなってるか、分かるか? 高橋センセ】


 高橋に歩み寄り、問いかける。

 あー、きんもちい。


【分かんねーよな。だって高橋センセ、人の心なさそうだし】


「っお前らが、それを言うか!!」


 図星だったようで、高橋は顔を歪ませながら殴りかかってきた。

 だが、問題はない。

 今の俺には、神の力がある。

 俺は2体の骸骨を呼び寄せると、高橋を捕まえさせた。

 高橋は逃れようともがくが、無駄なことだ。


 あー、楽しい。

 いつもへらへら笑顔を崩さない高橋が、悔しそうなツラして捕まってやんの。


【そんじゃ、この映像を見ながら、自分のかわいい子どもたちが何でこうなってるか、考えてろよな】


 そう吐き捨てて、俺はモニタールームに戻った。


「どれどれ……」


 映像を見て、俺はにんまりと笑った。

 プレイヤーのほぼ全員は、発狂し脱落していた。


 ――ただ、2人だけ生存者がいた。ほぼ全滅した、1年生の生き残り。

 こいつらは1問目からまったく動かず、その場に蹲っていた。


「チッ、これじゃ永遠に終わらねぇっつの。あと5分動かなかったら、ぶっ殺すか。……とその前に」


 あんなガキども、すぐに殺せる。

 それより先に、高橋のメンタルが壊れるところが見たかった。


【何でこうなったのか。考えてくれた? センセ】


 着ぐるみの中でニヤニヤしながら、高橋に問いかける。

 奴の目は生気を失っている。正気を失えば、容赦なく処刑されるのがルール。

 このまま高橋を追い詰めれば、全滅だ。


 そう、思っていたのに。


「前のゲームで対戦したね。五月祐輔君」


【――――ア】


 ……終わった。


 何で。どうして、バレた。


 ゲームの死者がGMになる仕様を知らされてないのに……しかも、のに!


 何で。何でこいつは、ピンポイントで俺だって気づいた!?


【なんでじゃないよ、ユウスケ君】


 案の定、てるてる坊主がやってきた。

 俺を……、俺を、始末しに。


 正体がバレた者の末路。

 それは頭の中に入っていた。

 絶対に、なりたくないと思ってた。

 デスゲームでの死よりも、断然恐ろしい――。


「お"ぎぇあ"ああああああああああ!」


 それは、徹底的な破壊、破壊、破壊。

 てるてる坊主の内部で、俺の全身は磨り潰されていった。


 痛みなどという言葉では表せない。

 それほどまでに、与えられる苦痛は壮絶だった。


「ア……アアアア……ア……」


 ――意識がぼやけていく。

 もうすぐ、五月祐輔おれは終わりを迎えるのだろう。


 あーあ、残念。

 せっかく非日常を楽しんでたのに、半分で終わりだなんてさ。

 まぁ、仕方ない。潔く散ろう。


 きっと、「次」があることを信じて。

 そこが、地獄だろうと生まれ変わりだろうと、だろうと――はみ出さずにいられる場所であれと、願って。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る