18話 ねこふんじゃった・開幕&1ターンめ

「ほら、やっぱり代表者は先生ばっかでしょ」


 勝ち誇ったように、ユウスケは言う。


「ぐぬぬぬ……。たしかに私じゃ分が悪いわ……。背が高くて、力のあるユウスケが最適解かぁっ」


 頭に手を当て、天を仰ぎながら柴田は言った。

 そのやりとりを、チームのメンバーは微笑ましく見ていた。


「――ねぇ。同姓同名じゃないですわよね?」

「いえ。あの字は彼女しかいないはずです」


 一方で、カイトとエリカは不可解の目をスクリーンに向けていた。

 注目しているのは、Dチームの代表、遠藤加奈。彼女は気弱で、いつもユウナの後ろにくっついている。

 とても、代表を買って出るようなタイプではない。


「まさか……代表を押しつけられたのかしら?」

「分かりません。ですが、僕たちに出来ることは何もありませんよ」

「……そうですわね」


 相づちを打ちながら、エリカはちらりとカナに視線を向けた。

 そして、背筋を凍らせた。

 Dチームの輪から少し離れた所にいる彼女は、いつもと同じように暗く俯いているように見えた。

 だが、何かが違う。

 とんでもなく恐ろしいモノを孕んでいるような――そんな風に、エリカの目には映った。


 ふと、カナと目が合いそうになり、慌てて視線を反らした。


(あの子、おかしくなってるんですわ。それはそうよ、こんな頭のおかしい空間で、あれだけ依存してきたユウナと引き離されたら……)


 そこまで思考して、はっとする。


(あら? そういえば、ユウナは……?)


【代表者のみんにゃは、チーム名が表示されたタイルに立ってにゃん!】


 ミケの声が鳴る。

 名残り惜しまれながら、あるいは激励の言葉を受けながら、あるいは特に何も言われず。


 代表者たちは、自分のチームのアルファベットが表示されたタイルに立った。

 分かりやすく、指定のタイルは発光していた。


 Aチームはステージ側から見て右隅に。


(※以下プレイヤーの進む方向はステージ側から見たものとする)


 Bチームは、Aチームから3マス左で、7マス前の位置に。

 Cチームはやや中央部に。

 Dチームは奥の左隅、Aチームとおよそ対角の位置に。

 Eチームは、Dチームから6マス右、3マス前の位置に。


 https://kakuyomu.jp/users/bumo555/news

(図解は近況ノートにすべて掲載)


【みんにゃ位置についたにゃん。それじゃ、「ねこふんじゃった」、スタートにゃ!】


 ブーーッ!


 開幕を告げるブザーが鳴った。


【Aチーム、5マスまで進むにゃん】


「適当でいいよな?」


 アナウンスに従い、ユウスケは直進する。

 5マスめのタイルを踏んだ時、「にゃお~ん」と猫の声が鳴った。


【Aチーム、肉球1つゲットだにゃん!】


「やっりぃ!」


 ユウスケはガッツポーズを作り、チームを振り返った。


「ユウスケ~! かっこいいぞ!」


 柴田が声援を送った。


「あのぉ。なんだか、ポ〇モむぐっ」

「やめなさい」


 余計なことを言おうとしたカイトの口を、エリカの手が塞いだ。


【続いて、Bチームの桑原にゃん。縦か横のマスを進むにゃん】


 アナウンスが鳴る。

 桑原は左へ5マス進む。

 肉球マスは踏まなかったようだ。


「うえええええええええええええん!!」


 肉球を得ることができなかったのが悲しかったのか、ユウが泣きだした。


「えっ、ちょ、ええ!? 泣かないでよ、まだまだこれからだから、ね!?」


 隣にいたミナミが、慌てて慰めた。


「あの子泣いてばっかだなぁ」


 シュウヘイが、彼らの様子を見ながら言った。


「あはは、そうだね……」


 ショウタは相づちを打ちながらも、煮え切らない表情をするのだった。


【次はCチーム、高橋にゃん! 真ん中で困っちゃうにゃん、好きな方向へ進むにゃん!】


「高橋にゃんって……そういう歳じゃないんだけどねぇ、あはは」


 苦笑いをしながら、高橋はまず左へ2マス進んだ。


「にゃぉ~ん」


 猫の鳴き声が鳴る。


「お、肉球を引いたかな。じゃあ、あと3歩、っと」


 ステージ側へ3マス。3マスめのところで、再び猫の鳴き声が鳴った。


【Cチーム、肉球2つゲットだにゃん!】


「高橋先生すごい~!」

「がんばれ~~!」


 彼のクラスの児童が声援を送る。

 高橋は「たまたまだよ~」などと言いながら、照れくさそうに頭を掻いた。


「…………」


 2年4組の児童の中で1人だけが、怯えた様子で俯いていた。


【どんどんいくにゃ! Dチーム、進むにゃん!】


 俯いたまま、カナはステージ側へ向かって5マス進んだ。

 猫の声は鳴らない。


「……なんだか、見てる方はヒマだなぁ」


 Dチームの男子が呟いた。


「暇って思えるのも、今のうちだよね」


 同じくDチームの女子が答えた。


「そうだな……。それにしても、あの子に任せて良かったのかな?」

「分からない。でも、あの子がやるって言って聞かなかったし、誰もやりたがらない役だし……。あれで良かったと思うけど。とにかく、信じて待とう」

「そうだな。応援しなきゃだな」


 そして、彼らはゲーム場に視線をもどした。


【最後、Eチームにゃ! 5マス進むんだにゃん!】


「よ~しっ! いっくぞ~!」


 森口もまた、ステージ側へ5マス進んだ。

 このチームもまた、肉球は得られなかった。


「ありゃりゃ。取れなかったか」


 頭を掻きながら言う森口。


「センセー! 何してんのよー!」

「肉球とってよー!」


 女子児童からブーイングが飛ぶ。


「しょうがないだろぉ~! こればっかりは運なんだから~!」

「センセー、運の女神から見放されてそ~」

「ヒドイッ!?」


 ポニーテールの女子――日ノ瀬明理ひのせあかりからの罵倒がぐさりと刺さり、森口は胸を押さえた。


【おつかれさまだにゃ! これで1ターンめは終了だにゃ】


 ミケのアナウンスだ。


【続いて、2ターンめに入るにゃん。勝負はまだまだこれからだにゃ~!!】




あつめたにくきゅう

 Aチーム……1コ

 Bチーム……0コ

 Cチーム……2コ

 Dチーム……0コ

 Eチーム……0コ






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