四曲め 桃太郎・金太郎・浦島太郎

29話 絶え間なく

 ぽた、ぽたり。

 血で染まった顔に、雫が落ちる。


「カイト……」


 血まみれでぐったりとする幼馴染みを、ミナミは呆然と見下ろしていた。

 口を開けば変なことを言い、歩き出せば変なことに強い関心を持ち始める。

 もう2度と、その姿を見ることは叶わない。

 現実を、受け入れられなかった。


 雨宮海人は死んでしまったという、現実を――。


「はいはーい、みんな、久しぶり~!」


 てるてる坊主の声。

 その直後、カイトの亡骸は煙のように消えた。

 辺りに飛び散っていた大量の血も、嘘だったかのように消失した。


「いや……っ、いやいやいやぁ……っ! カイトぉおおお!」

「ミナミ!!」


 取り乱すミナミの耳に、乾いた音が響く。

 はっと前を見ると、両手を合わせたシュウヘイと、その傍らにショウタがいた。


「……落ち着こう。発狂したって思われたら、かごめかごめの時みたいに殺されるかもしれねぇ」

「っそんな、落ち着けるわけ……! なんで冷静で――!」


 怒りに任せて拳を振り上げようとした時、シュウヘイの身体が小刻みに揺れているのが分かった。

 彼もまた、必死に動揺を押さえ込んでいるのだと分かり、ミナミはぐっと下を向いた。


「……そうね。何が何でも、指定されたゲームをこなしていくしか、ないもんね」


 ぽつりと漏らされた、絶望の言葉。

 ショウタもシュウヘイも、やるせない表情で俯いた。


 ミナミも、ショウタも、シュウヘイも。

 彼らの目には、いっぱいの涙が溜められていた。

 決して溢すまいと、必死に堪えていた。溢れさせたが最後、心の奥底にしまいこんだ願いを、大声で叫んでしまいそうだから。


 ゆえに彼らは、従う。

 すべての思考を、放棄して。


【長めのゲームでつかれちゃったところ悪いけど、次のゲームにうつっていいかな?どーしても休憩がほしいって人がいたら、手をあげて――】


「いい。さっさと進めて」


 なげやりに、ミナミが言った。


「じっくり考える時間がつらい」


 否定をする者は、誰1人いなかった。

 その場の誰もが、虚ろな目でステージを見上げ、次のゲームを待っていた。


 皆、考えることは同じ。

 親しい者の死に向き合うのは、あまりに辛い、と。


【そっか、キミはあの時の。カイト君が死んで傷心中かい?】


 ミナミはキッとステージを睨み付ける。


【残念なのは、ぼくも同じさ。彼には期待してたのに。どこぞのユウスケにゃんが負けちゃったせいで、まきぞえ食らうんだもん】


「どの口がッッ……!」

「ミナミ、落ち着け」


 シュウヘイが彼女の肩に手を置き、諌めた。周囲の者たちも、咎めるようにミナミを見た。


【かしこくなったね。プレイヤーのみんな。始まったばかりの時とは、おおちがいだ】


 満足げに、てるてる坊主は呟く。


【まぁ、おしゃべりはこれくらいにして。次のゲームに移ろう。三太郎ぉー、準備はいいかい?】


【万全である】


【オス!】


【大丈夫だぜ!】


 舞台裏から、3つの声が鳴る。


【それじゃあ、いっくよー。せーのっ】


 ――4曲め、桃太郎・金太郎・浦島太郎! はっじまっるよ~!












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