30話 三太郎・見参!

 てるてる坊主が退いていくと、舞台袖から3体の着ぐるみが現れた。

 先頭の1体は腰みのをつけ、釣竿を持ち。

 真ん中の1体は、髪を高い位置でひとまとめにし、刀を携え。

 最後の1体は、「金」と書かれた赤い腹掛けを身につけていた。

 着ぐるみたちは一列に並ぶと、客席側に顔を向ける。


【皆の衆、ご機嫌は如何か。拙者は桃太郎と申す者。何卒よしなに申し上げ候】


 真ん中の1体――桃太郎が、自己紹介をした。

 馴染みのない言葉遣いで、プレイヤーは今いち意味を汲み取ることができなかった。


【モモー、その固い口調やめない? 意味通じてないよ。あ、俺は浦島太郎ね! よろしくっ!】


 客席側から見て左の1体――浦島太郎が、軽い調子で言った。


【なぬっ!? 拙者は侍として――】


【オラは金太郎! よろすく頼む!】


 右の1体が、どすどすと前にやってきて桃太郎の言葉を遮る。

 悉くぞんざいにされた桃太郎は、へそを曲げてすごすごと舞台の隅っこに行ってしまった。


【おーい、モモ~? これから説明はじめっけど~?】


【……】


 浦島を無視し、桃太郎は背を向けて座り込んでしまった。

 桃の刺繍が施されたその背中は、どこか哀愁が漂っている。


【ったくしゃーねぇな、あいつも。んじゃ、俺がパパッとルール説明しちゃいますか】


 浦島がステージの中心に来た。

 金太郎は桃太郎のところへ行くと、慰めるように肩に手を回す。そして、2体はそのまま舞台袖へと消えていった。


【これから始まるゲームは、選択制だ。まず、浦島太郎・桃太郎・金太郎の3つの中から1つ選んでもらう。全部やる必要はない。選んだ1つをクリアすればいい】


【ちなみに、1つクリアした後、完全に個人の自由で別のゲームに参加することも可能だ。だがその場合、後に参加したゲームをクリアしなければいけなくなる。前のゲームをクリアしてた、ってのは関係なくなるから注意な】


「その場合のメリットってあんの?」


 ミナミが問う。

 ショウタとシュウヘイが、驚いて彼女を見た。


「そういう思いやりが必要になる場面があるかもしれない、ってことじゃないの?」


 浦島が答えるよりも先に、前髪なしのロングヘアの女子――村田華月が言った。

 彼女は、「ねこふんじゃった」でEチームに属し、小さな代表者・星川草太を鼓舞した児童だ。


「アンタ怖いよ。ヒトの命が掛かってるのに、メリットデメリットで考えるなんて」

「……ッ」


 カヅキの指摘に、ミナミはかっと顔を赤くした。


【まぁまぁ。ケンカすんなって】


 浦島の一言で、2人はステージに視線を戻した。


【カヅキの言うとおり、多くの協力が必要になるゲームがあるんだ。助けたい奴がいたら、好きに助けてくれってことさ。自己責任だけどな】


(今さらだけど、知らない奴にサラっと名前言われるの、不気味だなぁ)


 説明を聞きながら、カヅキはぼんやりと思った。


【説明を続けるぜ。それぞれのゲームの大まかな概要だが、こんな感じだ】


 スクリーンに、ゲームの説明が表示される。


 浦島太郎

 難易度……やさしい

 魅惑的な選択肢を避け続けるゲーム。

 8問全部正解してクリア。


 桃太郎

 難易度……ふつう

 障害物競走。サル・キジ・イヌの3つの種目をすべて制覇し、ゴールすればクリア。

 上位3名には特典が……?


 金太郎

 難易度……むずかしい

 1対多数の相撲対決。どんな手を使っても構わないので、金太郎を土俵の外に押し出せばクリア。


「ふつうに行けば、みんな浦島を選ぶよな……」


 シュウヘイが呟く。

 皆、どれが最も楽かを吟味するため、スクリーンを食い入るように見た。


【この3つの中から、参加するゲームを1つ選んでもらう。浦島太郎を選ぶ奴は、そっち側から見て左側に。桃太郎は真ん中に。金太郎は右側に並んでくれ】


 舞台袖からすごすごと桃太郎と金太郎が姿を現し、浦島が示した位置に立った。


【友だちと参加するのもよし、自分が思う楽そうなのを選ぶのもよし。3分時間をやるから、その間に決めておいてくれよな!】


 ゲームの概要はそのままに、スクリーンに秒数が示された。

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