七曲目 とおりゃんせ

59話 ここはどこの細道じゃ?

 とおりゃんせ とおりゃんせ

 ここはどこの細道じゃ

 天神さまの細道じゃ……


「ん……」


 不気味な歌声で、ミナミは目を覚ます。

 暗い空が視界に映った。

 身体を起こして、辺りを見渡す。

 石畳の地面。

 ぽつぽつと立つ灯籠。

 竹で作られた柵――。


「ここ……どこ?」


 風情があるが、どこか怖い。宵闇のせいだろうか。

 怪異が身を潜め、こちらを伺っているような――得体の知れない緊張感が、辺りを包み込んでいた。


「う~ん……」


 隣で声が鳴る。

 ミナミの肩が、びくっと跳ねた。


「あれ……。いつの間にか寝てた?」


 目をこすりながら、カヅキが言う。


「うん。私も、さっき起きたばっかりよ」


 ミナミが答える。


「そっか……」


 ため息交じりに、カヅキは相槌を打った。


「っていうか、ここどこ? 他の人たちは?」


「わかんない。気づいたらここにいた」


「……」


「……」


 ここはどこの細道じゃ

 天神さまの細道じゃ……


「ねぇ。この歌、どこから鳴ってるの?」


 自分の腕を抱きながら、カヅキが問う。


「分かんない。カヅキちゃんより、ちょっと早く起きただけなの」

「そっか……。ん?」


 カヅキはふと、ズボンのポケットに何か入っていることに気づく。それは、1枚の紙だった。


「何これ?」


 横から覗き込み、ミナミが言う。

 紙には、「真っ直ぐ」とだけ書かれてる。

 まったく意味が分からず、2人揃って首を傾げた。


「てかそもそも、どういう状況か分かんないんだけど……」


 カヅキがぼやく。

 ミナミも強く頷いた。


 行きはよいよい 帰りはこわい

 こわいながらも

 とおりゃんせ とおりゃんせ……


「あ"~~っ!!」


 あまりに突然に、ミナミが奇声を発した。

 びくぅうッと、カヅキは盛大に肩を跳ねさせた。


「ちょっと、おどかさないでよ!」

「これ、もうゲーム始まってるわ!」


 カヅキははっとした。


「そういえば、てるてる坊主が言ってた……」


 次のゲームは、「とおりゃんせ」だと――。


「でも、ルール説明がまだだわ」

「……もしかしたら、説明の必要がないのかも」


 カヅキが冷静に推測した。


「歌のとおりで、"行きはよいよい、帰りはこわい"、ってやつなんでしょ。道順は、紙に書かれたものを辿ればいい、って感じじゃない?」


 ぴら、と紙を見せるカヅキ。


「なるほど……」


 ミナミは納得して頷いた。


「とにかく、この道を真っ直ぐ進むしかなさそうだね」


 真剣な表情で、カヅキは呟く。

 視線の先には、永遠にも思える闇が、待ち構えていた――。







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