20話 ねこふんじゃった・3ターンめ&アクシデント
【Aチーム、移動を開始するにゃん】
ミケのアナウンスが鳴る。
ユウスケは、しばし考えた後、強い眼差しで人が密集している中央部を睨みつけた。
「地雷は踏まれたしな。チキってんのは、ごめんだぜ!」
高らかに叫ぶと、ユウスケは左へ5マス、堂々と進んだ。
すると、猫の鳴き声が2回鳴った。
「よし!」
ユウスケが手にガッツポーズを作る。
「やりますわね!」
「やりますやります」
喜ぶエリカに、某語録を返すカイト。
その隣で、フウカが必死にお祈りをしていた。
ツッコミを入れる者は、誰もいない。
「もしかしたら、はしっこにないのかなぁ? にくきゅう」
ミツキが呟く。
他チームの目が、ギラりと光った。
「ちょっと!」
フウカが怒りの形相でミツキの肩を掴んだ。
「敵にまで伝えてどうすんのよ! どういうつもり!?」
「やめてよぉ……。ただの予想だよぉ……」
目をうるうるとさせながら、ミツキは言う。
フウカは舌打ちすると、悔しげな顔で手を離した。
「そんなに怒らなくて大丈夫だよ。だって、わたしがいるんだもん」
にっこりと、ミツキは笑うのだった。
【次、Bチーム。移動を開始するにゃん】
桑原は、ギロリと高橋を睨みつけると、前へ
1マス。そして、高橋の方向へ一直線に4マス進んだ。
猫の声は鳴らなかった。
「1度踏んだところは2度と通れないからね。そう簡単には捕まらないよ。おれがいいって言うまで、"待て"だよ」
クスクスと高橋は笑う。
桑原は、刃物のように鋭い眼差しで、高橋を睨みあげている。
【どんどん行くよ、Cチーム。移動を開始してにゃん!】
高橋はくるりと背を向け、左へ2マス、前へ3マス進んだ。
2マスめで、「にゃお~ん」と猫の声が鳴った。
「やった。肉球が手に入ったね」
そう呟くと、高橋は冷たい眼差しで桑原を振り返った。
「安心しなよ。今すぐにじゃなくても、然るべき時が来たら相応の報いを受けてもらうから」
「……ふっ」
桑原が笑う。
「楽しみにしてるわよ」
少し離れた場所で、2人は睨み合った。
【続いて、Dチーム。進むにゃん!】
「…………」
カナはちら、とアカリを見やると、無言のまま奥へ3マス進み――右へ2マス進んだ。
猫の声が1回鳴った。
「最後はEチーム! 移動を開始するにゃん!」
「あたしとやるってのね!」
視線に気づいていたアカリは、近くのマスにいるカナに向かって言った。
「いいよ!お望みどおり、ノってやろうじゃない!」
好戦的に告げると、アカリは奥へ3マス進み、左へ――カナのいるマスへと足を踏み入れた。
【押し相撲ターイム!!】
シンバルの音とともに、ミケがアナウンスした。
【Dチームのカナにゃんのいるマスと、Eチームのアカリにゃんが進んだマスが重なりました! そのマスほしけりゃ、相手を押しのけろ~!】
「あんた、ずいぶん弱そうじゃんw」
アカリが挑発する。
「……」
カナは無言で俯いたまま、何も反応しなかった。
【はっけよ~い……】
「ま、いいけど」
【のこった!!】
「ぶちのめすだけだもんね!!」
そう叫び、アカリはカナを力いっぱい押そうとした。
「……え?」
突如、腹部に強烈な痛みが走り、その場に蹲る。
「な、に……?」
腹に手を当てると、ぬるりとした感触がした。
見てみると、赤がべっとりとついていた。
「血……?」
「あははははははははははははははははははははは!!!」
カナが高らかに笑い、アカリを蹴り飛ばした。
その手には、赤いシミのついた白いナニかが握られていた。
その先端は鋭く、人を殺傷するのは容易い代物だった。
「ユウナちゃあああああん……。ずっと、ずっとだいすきだよぉおおおお……」
恍惚としながら、カナは白いナニかに頬ずりした。
「ユウナちゃん、1人でしんじゃって、あんなむざんな状態になっちゃって、かわいそう。私がいっぱい、そっちに送ってあげるね! そうしたら、もう寂しくないよ。私のことも、許してくれるよね?」
「なに、言ってんの……」
腹部を抑えながら、恨めしそうにアカリはカナを見上げる。
「ねぇ、知ってる? ヒトの骨ってね。加工すれば凶器になるんだよ?」
ニタニタとアカリを見下ろしながら、カナは言う。
「ふぅん、なるほど。さっちゃんの時に……。やるわね」
桑原が呟く。
「桑原先生。そのままおれを追い続けててね」
対して高橋が、優しい声色で、けれど氷のように冷たい表情で言った。
「ふん、言われなくてもそのつもりよ」
「それでいい。そのままおれだけを見ててね」
【――ちょっと】
ミケの怒った声。
その直後、カナの身体が無数に切り裂かれた。
【ボクは、押し相撲をしろ、って言ったはずだにゃ。プレイヤー同士の暴力行為は固く禁ずるにゃ】
「ひ――」
びしゃびしゃとかかる返り血。
小ばかにするような態度を崩さずにいたアカリも、さすがに恐怖を抱いた。
「ちょっと! そんなの最初のルールになかったわ!」
桑原が吠える。
【常識的に考えろにゃ。オマエラ人間の遊びは、相手に勝つためなら凶器を持ち出すのかにゃ?】
「デスゲームなんてやらせておいて、常識を押しつけるのは無理があると思うけどね、ミケ君。でも、ゲームマスターがそう言うなら、従わざるを得ないね。ちなみに、それに関してなんだけど――」
高橋は冷たい目で、すっ、と床にひれ伏すアカリを指さした。
「その子も刃物を持っていたようだよ。その怪我じゃゲームは続行できないだろうし、Dチームの子がやらなくてもその子が刺してたよ。どうだい? 喧嘩両成敗にならないかな?」
「は!? 何言って……」
【ほーう?】
ミケが興味深そうな声を出した。
「日ノ瀬明理。きみ、イジメをするために彫刻刀を持ち歩いているだろう。親が権力者なのをいいことに、好き勝手やってたよね。この機会だし、報いを受けてもいいんじゃないかい?」
「は!? なんの話かさっぱり分かんないんですけど!」
「かごめかごめの時も、きみ、わざとクラスメイトを殺したね」
その時、高橋は桑原を一瞥した。
「――きみは、人が死んで嬉しいんだろう。自分が生き残りやすくなるから」
ミケがアカリの傍にまでやってきて、服の中を弄る。
「ちょっと! どこ入ってんのよ!?」
慌てて侵入者を取り除こうとするが、すばしこい動きに対抗できず。
【あった。高橋にゃんの言う通り。彫刻刀だにゃ】
「……っそうよ! 私は生き残りたいの! だって、デスゲームってそういう――」
【たしかに、その生き汚さは大事だにゃ】
「そうでしょ!?」
【でも――――】
赤が飛び散る。
3人目の死体。
アカリの体は、木っ端みじんに切り裂かれた。
【心の汚い人間に、生き残って欲しくはにゃいにゃ。これはボクたちの好みだけど……にゃ】
犠牲者……児童2名
残り、146名。
あつめたにくきゅう
Aチーム……3コ
Bチーム……1コ
Cチーム……4コ
Dチーム……3コ
Eチーム……0コ
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